- 2012.10.29
- 書評
『陰陽師』二十五周年を記念して
最新作とファンブックが同時刊行
文:文藝局編集部
『陰陽師 酔月ノ巻』 (夢枕 獏 著)/文春ムック「『陰陽師』のすべて」
ジャンル :
#歴史・時代小説
すべてを見とおす稀代の陰陽師・安倍晴明と、心優しき笛の名手・源博雅が、平安の都で起こる怪事件を解き明かす『陰陽師』の第1話「玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること」が、最初に雑誌に掲載されたのは、26年前の昭和61年9月号のこと。そしてシリーズ第1弾となる単行本『陰陽師』の発売は、24年前の昭和63年8月。これが、のちに累計500万部を超える人気シリーズの嚆矢となりました。そこで、今年を『陰陽師』誕生25周年記念の年と位置付け、文藝春秋では、ファンブック「『陰陽師』のすべて」を、最新刊『陰陽師 酔月ノ巻』と同時に発売します。 『陰陽師』は、それまで、古典、小説はもちろん歌舞伎、能などで親しまれてきた安倍晴明を、独自の幽玄な世界観とキャラクターで描き出し、新たな息吹を吹き込むことに成功し、時代小説の新たなヒーローとして多くの読者の支持を獲得しました。そして、滝田洋二郎監督と、野村萬斎氏の主演による映画化、岡野玲子氏によるマンガ化などでさらに読者層を広め、いわゆる陰陽師ブームをけん引。その後も、京極夏彦氏の「京極堂」シリーズや、結城光流氏の『少年陰陽師』など、陰陽道をテーマとした作品が、数多く登場、「陰陽師もの」としていちジャンルを築くまでとなりました。
今回発売される文春ムック「『陰陽師』のすべて」では、これまでの『陰陽師』シリーズ全巻を振り返り、妖怪、呪などに注目、それぞれのエピソード、登場人物をすべて網羅して紹介。坂口安吾にインスパイアされて書いたという単行本には未収録の短編「花の下に立つ女」を、村上豊氏の美しいカラー挿絵とともに収録。あの夢野久作の妹である祖母も愛読者だったという、アナウンサーの渡辺真理さんとのファン対談、夢枕獏さんが選ぶ『陰陽師』自選短編ベスト10、物語の舞台の地を、夢枕さん本人が辿る『陰陽師』ガイドマップ、『陰陽師 玉手匣』で、去年から『陰陽師』シリーズを再開したマンガ家の岡野玲子さん、そして晴明の孫が活躍する大ヒットライトノベル『少年陰陽師』の著者、結城光流さん、「COMICリュウ」で『陰陽師 瀧夜叉姫』を連載中の睦月ムンクさんなどの豪華インタビュー、東雅夫さんによる『陰陽師』解題、細谷正充さんによる『陰陽師』関連ブックガイドなどを収録。夢枕作品ではお約束の「あとがき」ももちろん執筆。ファンの方はもちろん、これから『陰陽師』を読みたいという方にもおすすめできる、充実の内容となっています。
「オール讀物」とのコラボ企画も!
対談にご出演いただいた渡辺さんは、学生時代からのファンで、その熱い思いを、夢枕さんにぶつけていただきました。対談では10月22日発売の「オール讀物」で掲載される『陰陽師』の最新作とのコラボレーション企画も実現。こちらも見逃せません。そして9月に単行本が発売になったばかりの『陰陽師 瀧夜叉姫』のマンガを描く睦月さんは京都在住。地の利を生かした臨場感のある描写と、原作の持つスピード感、そして独特の世界を忠実に再現しつつ、マンガならではの親しみやすさで、独自のアプローチを目指すことの苦労と楽しみを語っていただきました。また岡野さんに、新シリーズ『玉手匣』にかける意気込みと、晴明、博雅と再び出会えた喜びを語っていただきました。『陰陽師』を常に意識して『少年陰陽師』をスタートしたという結城さんは、作家から見た『陰陽師』の面白さ、平安時代を舞台にすることの難しさ、そして、いかにして、夢枕版『陰陽師』と異なる晴明像を作り上げたかというお話を伺いました。
今回のムックでは、夢枕『陰陽師』の世界をより、深く味わっていただくための副読本としてはもちろん、なぜ 安倍晴明が、古来日本人に愛されて数多くの創作物の題材となって来たのか、その背景をご理解いただける一端になればと思っています。
また、単行本最新刊となる『陰陽師 酔月ノ巻』では、これまでの世界観を踏襲しつつも、新たな試みを取り入れています。何と言っても、あの蘆屋道満が主役の短編が、2編収録。晴明のライバルながら、いたずら好きで飄々としてどこか憎めない道満の魅力にあふれた短編です。もちろん、都の妖怪を祓う晴明と博雅の活躍も満載。今をときめく藤原兼家が、首から下が消えて途方に暮れて、息子道長に伴われ、白木の箱に入れられて晴明の屋敷を訪れる「首大臣」、「いつか望月になりたや」と言いつつ徘徊する謎の貴族を巡る奇譚「望月の五位」など、今回も、期待を裏切らない魅力的な謎に満ちたお話です。10月末刊行の2冊、ぜひ、あわせてお読みください。