2010.10.20 書評

投稿時代とノロウイルス

文: 乾 ルカ (作家)

『夏光(なつひかり)』 (乾ルカ 著)

  拙作『夏光』が文庫化される予定だということは、今年、文春文庫の方からいただいた年賀状で知りました。

  単行本のほうはあまり売れなかったはずなので、文庫にしていただけるかどうか、微妙なところだと思っていましたから、それはもう嬉しかったです。

  単行本発売から三年。当時を振り返り、あれから三年も経ったのか、と感慨を深くしました。三年の年月で、私を取り巻く環境は大きく変わりました。一番の変化は、雇用止めで失職したことでしょうか……。次の勤め先が決まらず、今は小説を書くことが生活の中心にありますが、当時、特に表題作である「夏光」執筆時は、勤めをこなして帰宅してから、あるいは出かける予定の無い休日、限られた時間を惜しむように、パソコンに向かっていました。

  日の目を見るかどうか分からない小説を書き、投稿しては落選する。なんでもすぐ投げ出しがちの私が、小説だけは書き続けた理由は、自分でも不明です。ただ、ちょっと意地はあったと思います。負けっぱなしで退くわけにはいかない、というような。

  まあ、ある意味お馬鹿さんです。

 

 文庫にしていただくにあたり、改めてゲラとなった自分のデビュー作を読み返してみました。

 そして、落ち込みました。

「私って、こういうふうに書けていたんだなあ」と。

 三年前、なんとか本を出していただくために、手探りながら躍起になっていた自分が目の前に蘇(よみがえ)り、その若さと(いや、当時も大して若くはなかったのですが)情熱にうなだれました。

 特に「夏光」などはそうでした。

 これはオール讀物新人賞をいただいた短篇です。つまり、素人時代に書いた小説なのです。今も「プロの小説家です」と自称するのは、ちょっとおこがましくて、ためらうものがあるのですが、とにかく「夏光」を書いたころは、紛(まぎ)れもなく素人でした。

 別に投稿しなくても誰に迷惑がかかるわけでもなく、怒られもしない。応募についての締切日はありますが、それは「もしも出すのならこの日までにね」というもので、「この日に間に合うように出せー!」と強制されるのではありません。

夏光
乾 ルカ・著

定価:610円(税込) 発売日:2010年10月08日

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