江戸時代の清々しさ
私が江戸時代の人々に魅かれるのは、誰しも現実を直視して生きているからだと思います。与えられた仕事を全うする姿勢が清々しいのです。商家の手代、番頭なら、店のために少しでも売り上げを伸ばそうと努力しますし、武士ならば仕える主に忠誠を誓います。
現代とは違う精神構造でもありました。父親は仕事第一で、子供の行動が母親の手に余れば、たまに雷を落とすぐらいだと思っております。それで子供も聞き分けるのですから、大したものです。また、母親も父親が結婚記念日を忘れたからと言ってむくれるような者はいませんでした。
ちなみにわが家も結婚記念日にお祝いをするという習慣はありません。ああ、34年も経(た)ったかと、いっとき、感慨に浸(ひた)るだけです。そう言えば、結婚記念日だけでなく、自分の誕生日も失念していることがあります。夫の行きつけの飲み屋さんのママに花束を贈られ、うわッと思ってしまうのですが。
ですから、髪結い伊三次のシリーズを家族の話と片づけられるのは承服できません。私は人が人として生きて行く意味を追求したいのです。それに家族の問題がたまたま絡(から)んで来るだけのことなのです。
はからずも「心に吹く風」は臨時廻り同心不破友之進(ふわとものしん)の娘の茜(あかね)が大名屋敷へ奉公に上がり、伊三次の息子の伊与太(いよた)も一時は絵の修業を中断して実家に戻っていましたが、再び、師匠の許(もと)に戻って行く転機の話になりました。文庫刊行にあたり、私自身にも大きな変化がございましたが、それについては、文庫のあとがきをご覧下さい。
しかし、「心に吹く風」は、私にとって特別な1作ではなく、伊三次のシリーズの一過程だと思っております。これからもよろしくおつき合いいただければ幸甚に存じます。
心に吹く風
発売日:2015年03月27日
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