TVやラジオから「ありのままの姿見せるのよ」というフレーズが流れてくるのを耳にされた方も多いでしょう。
大ヒット中の映画『アナと雪の女王』の主題歌ですが、原題の『Let It Go』は直訳すると「手放しなさい」「放っておきなさい」という意味になります。
私は、聖心会のシスターとして、セラピストとして、ある体験をきっかけに、40年以上、死を前にした人に寄り添うことを続けてきました。それと同時に、生きることに悩んでいる人々の話にも耳を傾けてきました。
日本で最高峰の大学を卒業しながら引きこもり生活を送る男性、母親との関係に苦しんできた女性、職場での人間関係に疲れ果て、うつ状態に陥った若者……。
彼らはみな「今よりもっと立派な自分にならなければ」という思いを抱えて理想と現実の間でもがいていました。
もちろん、向上心を持つことは素晴らしいことです。けれども、人が生きていくうえで忘れてはいけないことがあります。それは、今の自分を決して否定してはいけないということです。
自分の“ひび割れ”を愛する
インドに伝わる「ひび割れた水瓶の話」があります。毎日、川から水を汲んで、高い丘の上にあるご主人様の家まで運ぶ仕事をしていた水汲みの男性がいました。彼は、竿をかつぎ、その両端に一つずつ水瓶をぶら下げていました。しかし、片方の水瓶にはひびが入っていて、家に着く頃には、水が半分に減ってしまっているのでした。
あるとき、ひびの入った水瓶は男に言いました。
「私は役立たずだ。私のせいであなたの努力が報われない」
すると男は言いました。
「見てごらん。私たちがいつも通る道のどちらに花が咲いているだろう」
そこには、ひび割れの水瓶が通った側にだけ、美しい花が一本の道のように咲いていました。
私たちも、それぞれ自分だけのひび割れを持っています。私たちは、皆、ひびの入った水瓶なのです。そして、自分のひび割れを愛してあげることがとても大切なことなのです。