この本に書いたことは、すべて現在進行中のことで、著者の私自身も、この先どうなるのかよくわかっていない。読者の方には申しわけないが、これは私の本音だ。ただ、タイトルにあるように、既存のプリントメディアにとって「明るい未来」は訪れそうもない。
昨年の10月末、本書をほぼ書き終えたとき、多くの友人、知己に原稿を読んでもらった。それ以前、原稿を書き始めた時点から紆余(うよ)曲折があったからだ。
「やっぱり、こういう結論になるよね」「ここまで書くと出してくれるところなんてないかも」と、業界を知っている友人たちは言った。
だから、年が明けて最終的に文藝春秋から出していただけると決まったとき、私は正直、ほっとした。いちばん心配してくれたのは、日本写真家協会の理事をしているカメラマンの足立寛氏だった。「はやく出さないと内容が腐ってしまうでしょ」と自分のことのように思っていてくれたからだ。また、私と一緒に電子書籍ビジネスを手がけてきた仲間も、同じ思いだったと思う。
が、ほっとするのもつかの間だった。電子書籍と出版界を取り巻く状況はどんどん変わっていた。それを書き加え、校了できたときは、どっと疲れが出た。長年編集者をしてきたので、これまで何百冊も校了してきたが、それはみな他人の本。自分の本となると15年ぶりだったので、終わった後は、しばらくは放心状態だった。
本書の第11章に登場する全米第2位の書店チェーンのボーダーズは、この校了作業中に連邦破産法11条を申請して倒産してしまった。既存店のうち約200店が閉鎖されるという。ボーダーズは私にとって思い入れの強い書店だった。店内に併設されたカフェでコーヒーを飲みながら好きな本を読む。そんな至福の時間は、このデジタル時代には「時代遅れ」ということなのだろう。
また、校了までに間に合わなかったが、アップルは電子書籍販売の方法をどんどん変えようとしている。「iPad」「iPhone」などで電子書籍を販売する場合、これまでは2通りの方法があった。一つは、アップストア内に「独自ストア」を開きそこで販売する。もう一つは、書籍を単体のアプリとして販売するというもの。このうち、後者の単体アプリをアップルはこの先排除していく方針のようだ。
すでに「書籍の単体アプリ申請の差し止めと数量自粛」の要請が、日本の出版社やコンテンツ提供事業者に来ている。さらに、アップルはコンテンツの決済方法を自社の決済に一本化する方針を発表している。これは電子書籍に関しては最終的に「iBook Store」以外の販売は認めないということだ。