斉藤  忘れがたいものがもうひとつ。パナソニックの発表会で見たアレはショックだった。

内澤  模擬便！  あれはスゴかった。

斉藤  新商品の発表会の実演で、まさか本物の便を流すわけにはいかんだろう、どうやって実演するんだ？  と思っていたら……。

内澤  本当によく出来てました。しかも一種類だけでなくて、普通便、やや軟便、軟便、水様便、浮遊便の五種類も！

斉藤  色こそ深緑に着色されているけど、そのたたずまいはどう見ても本物の便、さすがに臭いはないのだけど。

内澤  注射器みたいな容器に模擬便を注入して絞り出すシステムだけど、その圧力のかけ方にも苦心したんですって。

斉藤  研究者風の年配の人が笑うでもなくスイッチを入れると、「オーッ」とほかの見学者からもどよめきが起きたもんね。一本につながってなくって、出てくる途中でちぎれるあたりもみんなが納得するぐらいリアル。

内澤  私が「何で出来ているんですか？」と聞いたら。

斉藤  なんと味噌！

内澤  味噌は有機物が発酵したものだから似ているらしく、鼻を近づけてみたら、本当にほんのりと味噌の匂いがするんですよ。

斉藤  深緑色に色がついていたのは、脂汚れに赤色、水垢（みずあか）汚れに青の染料を使って便器への付着具合をチェックするからだっていうんだけど、あの努力には脱帽でした。

東方見便録
斉藤 政喜・著 , 内澤 旬子・イラスト

定価：630円（税込）

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