- 2013.11.07
- 書評
「究極のご飯の味」を教える
親にできる教育はこれしかない
文:佐藤 隆介 (作家・雑文処[鉢山亭]主人)
『長谷園「かまどさん」の美味レシピ ほっこり土鍋ごはん』 (伊賀焼窯元 長谷園 著)
ジャンル :
#趣味・実用
古来のご飯の炊き方を再現
「ああ、美味しかった……」
という満足の笑顔の根本は、日本人の場合は、ご飯にある。ところが本当のご飯の味を知らない人間が多くなってしまった。しかも自分ではそのことに気付いていない。そういう輩は必ず「うちは南魚沼産のコシヒカリだからねえ……」
と得意顔でいう。では、どうやって炊いているかと尋けば百人中九十九人は自動炊飯器だ。私にいわせれば、笑止千万。そんな道具に頼っている限り、究極の米の飯の旨さはついに知るよしもない。
古来、ご飯とは、「薪のかまどで、重い木蓋の羽釜で炊いて、お櫃に移してほどよくむらす」のが究極の美味とされてきた。その境地に達した自動炊飯器は私の知る限り、ない。
ただ一つ、古来のご飯の炊き方を再現したのが「かまどさん」である。簡単にいえば二重蓋の土鍋でしかないのだが、古琵琶湖の底土だったという多孔質の伊賀土の神秘的な作用で、「薪のかまど」「木蓋の羽釜」「お櫃」の三役をかまどさんは果たす。しかもガス火にかけて湯気が立ったら止める。これだけの簡単さである。
かまどさんが世に出たのは十二、三年前だが、私はその誕生時からの愛用者で「最古のユーザー」を自負している。だから、かまどさんのこととなると、つい肩に力が入って旗振りをしてしまう嫌いがあるが、かまどさんに関しては絶対の自信を持ってお勧めできる。これで炊かない限り、永久に本当のご飯の味はわからないぞ、と。
そんな「かまどさん狂」の、つまりは「ご飯狂」の私であるが、この土鍋一つでこんなに色々な旨いものができるとは、『ほっこり土鍋ごはん』を読むまでとんと知らなんだ。
ローストビーフは私の好物の一つで出来合いを買うと高いから自分で焼くのだが、手首が腱鞘炎になりそうな重い鉄製のダッチオーブンでなくても、かまどさんでそんなに簡単にできるのであれば、さっそく試してみよう。
しかし、これは私の思い込みでしかないが、色んな料理や炊き込みご飯の春夏秋冬はどうでもいい。かまどさんのかまどさんたる所以は、何の具も味付けもいらぬ「白いご飯」そのものの旨さにある。それを実感し、それを直ちに子供たちに教える。親が親としてできる教育はこれしかない。