タイトルどおり、6編からなる桜庭さんの初めての短編集。執筆時期は広範囲にわたり、1編目の「このたびはとんだことで」は2006年に純文学誌に発表したもの。ラストの「赤い犬花」は昨年、小誌に書かれたものだ。
「昔のものは下手かな、と最初は心配しましたが、読むと意外と大丈夫だと思い、ほとんど加筆はしていません。今は書くことに慣れて、描写をきちんとするぶん長くなる傾向にあるのですが、あらためて読むと、初期の頃の短い描写は粗削りでも勢いがあったりするので、良いところは取り入れつつ洗練もしていきたいな、と思えました」
他にも、後に『青年のための読書クラブ』に発展した、パイロット版ともいうべき「青年のための推理クラブ」、07年に『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞を受賞し、受賞第1作として書かれた「五月雨」、さらに『私の男』での直木賞受賞後、発表号(オール讀物2008年3月号)に同時掲載された「冬の牡丹」など、今まで単行本未収録だった作品ばかり。
「2005年に『少女には向かない職業』を出してから、大人向けの小説を、と各出版社から声をかけてもらい、少しずつ書くようになったんです」
短編だけだとなかなか本にならず、長編を書くために空いた時期もあるが、初期の作風の変化が分かる1冊になったのでは、と自ら分析してみせる。
昔から好きだったという吸血鬼。それに日本の山奥の人々への興味が加わり、和風の吸血鬼のような話になったのが「五月雨」。少年と少女や、少女同士ではなく、父と娘の物語の『私の男』よりもさらに世代を離して男と女を書いてみた「冬の牡丹」。都会の子が田舎でのひと夏の経験により成長する「赤い犬花」は、小さな男の子を語り手として初めて起用したものだ。
本の帯に「もう、お別れなのだ。殺すこともなく。愛しあうこともなく。」という一文を引用した「モコ&猫」もいい。大学時代に出会った女の子を好き過ぎて、見守るだけで何もできない“ぼく”の何年かが描かれている。
「好きなのに行動に移せず縁ができなかったという経験は誰にもあり、客観的に見ると共感できるかなと思って。この話は長くしようとすれば長編にもできますね。以前に村田喜代子さんにお会いした際、短編の書き方を質問したら丁寧に答えてくださり、長いアイデアを縮めるのではなく、1個のアイデアを広げるのが短編だとおっしゃった。それだ、と思ったのですが、いざやろうとしてみると難しい(笑)。アイデアを研いだ挙句にフワッと出てくる余韻も大切ですし、短編は1本書くにも世界観を作るのが本当に大変です」
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