――山小屋を舞台にした人間ドラマ『春を背負って』(文春文庫)が木村大作監督によって、映画化(2014年6月14日・東宝系公開)されることになりました。まず木村監督は、この原作のどこに惹かれたのでしょうか。
木村 僕が一番惹かれたのは、『春を背負って』の「背負って」という言葉だったんです。まさにこの本で笹本先生が描かれた通り、人間誰しも、人生のある時点までいったら、みんな何かを背負っているわけですよ。これはすごく映画的だな、と思いました。
笹本 タイトルにはいつも苦労するんですけど、『春を背負って』は珍しくいい形で決まりました。この作品は、もともとは「オール讀物」に連作短編として掲載されたんですが、その第1作目の最後に、ゴロさん(※登場人物)が春の小屋開きの荷物を背負って山を登ってくる場面があった。その姿が主人公の亨には希望の象徴に見えた。「あ、これだ」と感じて、そのイメージでそのまま『春を背負って』とタイトルにしたんです。
――笹本先生は、木村監督が映画にすると聞いて、どう思われたのですか?
笹本 正直、ちょっと意外でしたね。木村監督といえば、カメラマンとして参加された『八甲田山』(森谷司郎監督)や、初監督作品の『劔岳 点の記』(2009年)など、雪山を撮らせたら第一人者という認識はありましたが、いずれもハードな題材で、そちらを得意にされているイメージが強かったもので、果して『春を背負って』の世界観と合うのかな、と思ったのも事実です。
木村 いや、それは全員思ってましたよ。こういう温かいハートウォーミングで爽やかな作品は、木村大作には無理なんじゃないか、って(笑)。僕だけは「今に見てろ」って思ってたんだけどね。