「日本は地震国、いつ大きな地震に襲われても不思議ではないんだ」。この事実を頭ではわかっていても、それがいつ、どこに、どのような規模で起きるのか、という段階になると、どうしても他人事になりがちだった。
そう、あの日まで。
しかし、死者・行方不明者2万人超という未曾有の大災害である3・11東日本大震災を、そして福島第一原発の放射能流出という「想定外」の事故を経験した今となって、そんな悠長なことを言っている閑はなくなった。
では、次の巨大地震は、いつ来るのか?
そしてその時、津波は、原発はどうなるのか?
こうした日本人の誰もが考える「近い将来」の現実に対処するための、格好のバイブルが出た。本書『巨大地震 権威16人の警告』である。
ナルホド、と唸った。まさに、本書に掲載された執筆陣は豪華だ。今回の福島第一原発事故から遡ること14年、1997年時点から「原発震災」というキーワードで大災害の危険性に警鐘を鳴らしてきた石橋克彦氏を筆頭に、地震学者、原発問題研究者、危機管理の第一人者、さらには1995年の阪神・淡路大震災の当事者たちの論考が並ぶ。
巻頭に附された「本書の読み方」には、こうある。
《地震列島に住む私たちにとって、地震は避けることのできない天災であり、被害をいかに最小化するかが、もっとも大切な問題意識だからである。これらの論文には、その点がはっきりと指摘されていた。論文が発する貴重な忠告を今後の防災に活かせないか。書名にあえて「警告」と銘打った理由である。
論文を収録するに際しては、(1)巨大地震はいつ来るのか、(2)いかに備えるか、(3)原発事故をどう考えるか、(4)被災者をどう支援するか、という4点を重視した》
つまり、巨大地震を、それに伴う大災害の危険性をいたずらに煽るのではなく、その来るべき危機に、どう対処することができるのか、という問題提起を促しているのだ。
本書にあるように、地震予知は難しい。たとえば、東海地震は「いつ起きてもおかしくない」状況にある、という。そして、この東海地震が、東南海・南海地震を連動して引き起こす危険性も高い。この時、日本列島の海岸線で言えば、静岡県の駿河湾から紀伊半島南端の潮岬を経て、日向灘にまで及ぶ広範囲が、地震に襲われる危機に瀕する。
だが、その地震が「いつ」起きるかを予知するのは、確率の問題で難しいのだ。それは最新の科学の知見を駆使しても限界がある。
また、3・11で震度5強に見舞われた東京では、交通網が一斉にダウンすると同時に、高層ビルの住居・オフィスは長周期地震動による大きな揺れやエレベーター停止による不自由を強いられた。これが首都直下地震に襲われた際には、今回とは比較にならない数の「帰宅難民」や「高層難民」の氾濫が予想される。
今後、私たちに求められる地震への備えとは、旧来の知見では「想定外」だったものまでが含まれることを、本書は警告しているのである。その点でも、書名に「警告」と銘打っていることは意義深い。
寺田寅彦が随筆「天災と国防」で、こう指摘したのは、1934年のことである。
〈日本はその地理的の位置がきわめて特殊であるために国際的にも特殊な関係が生じいろいろな仮想敵国に対する特殊な防備の必要を生じると同様に、気象学的地球物理学的にもまたきわめて特殊な環境の支配を受けているために、その結果として特殊な天変地異に絶えず脅かされなければならない運命のもとに置かれていることを1日も忘れてはならないはずである。(中略)ここで1つ考えなければならないことで、しかもいつも忘れられがちな重大な要項がある。それは、文明が進めば進むほど天然の暴威による災害がその劇烈の度を増すという事実である〉
今から80年近く前の言とは思えないほど、いまの時代を射抜いている。そして、この一節を引用している本書も、時流の変化に色褪せない力強さをもっている。
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