オシムさんが病気で日本代表監督を退任して三年近くたつが、日本での注目度は相変わらず高い。代表時代の通訳だった筆者も交流が続いている。今年もワールドカップを前後して、なんだかんだで二カ月以上も、オシムさんと一緒に仕事をさせてもらった。
オーストリア第二の都市グラーツの郊外にはオシムさんの自宅がある。普段は週に数回、リハビリのために通院などする生活なのだが、今回のワールドカップの期間中、オシムさんは自宅近くのホテルの仮設スタジオからスカパー!の生放送で、試合の見どころや感想などをコメントした。日本戦のほかにも、ほぼ二日に一回のペースで、十七試合の放送に出演した。
オシムさんのコメントはほかとはひと味違い、放送されたものだけでも十分に興味深く、感心する話が盛りだくさんだった。しかし、真骨頂は放送されなかった部分にあったと思う。それが、試合中の「つぶやき」だ。
「パスすればよかったのに」とか「危ない!」とか――スカパー!ではこれらを、生放送に並行してツイッターで配信した。ツイッターは、最近流行のインターネット上の情報発信手段の一種で、一回百四十字以内のメッセージ(ツイート)で情報や意見交換などができる新しい道具である。
試合の放送には、従来の形でのテレビ音声による実況・解説がもちろんつくのだが、携帯電話やパソコンでインターネットに接続している人は、オシムさんの「ツイート」を読みながら観戦もできる、という仕掛けがこしらえられた。
これがサッカー中継の新しい楽しみ方として、注目され、大きな話題になった。この本は、その際にオシムさんがグラーツから南アフリカと日本に向けてつぶやいた、ツイッターの記録をまとめたものである。
発信日時・時間を記したツイートがまとめて出版されるのは、おそらく世界初めてで、この本そのものもかなり実験的な性格がある。少なくとも、これまで誰も作ったことのない出版物だ。
ツイッターは本来、同時性や速度が売り物だから、最初から後でまとめて本にしようという意図があったわけではない。ところが、並べてみると案外、面白い。そういう世界初の出版物を出そうという企画は、発案者である担当編集者のFさんのひらめきとセンスなしには実現しなかった。
おもなコメントには通訳(千田)が簡単な補足説明をつけたが、その内容もほとんどがオシムさんとのやりとりから誕生したものだから、事実上ほぼ全篇がオシムさんからのメッセージだといっていい。
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