いうまでもなく、オシムさんのエスプリとユーモアは筋金入りだ。その上、オシムさんはプロの監督のくせに、サッカーは勝てばいいとは考えない。つまり、結果だけでは満足せず、サッカーは面白くなければ、美しくなければいけない、と考える、勝負師というよりはアーティストといっていい。
そのせいで、何気ないコメントがとてもチャーミングなのだ。サッカーだけでなく、人生や運命、挑戦、勇気などについても考えさせられる。
サッカーにくわしい人にとっては、技術や戦術の考え方などで参考になるだろうし、サッカーはそれほどでもないという人も、言葉の端々にあらわれる選手たちへの気遣い、人生のヒントのようなものに力づけられ、エネルギーをもらえるだろう。
本当ならば、自分が監督としてベンチで指揮を執っていたはずの日本代表。病に倒れたために、南アフリカではなく一万キロ離れたオーストリアから声援を送ることになった。悔しいはずだが、そんなことは感じさせず、自分の「教え子」たちへの愛情あふれる声援を送り続けた。ときには監督目線になって、怖がるな、勇敢にたたかえ、と厳しいアドバイスというか念力のようなものも送っていた。
初戦のカメルーン戦では「カメルーンも怖がっている。チャレンジしろ駒野」とか「このボールにはブーメランが仕込んであるのだろう」などとつぶやいている。オランダ、デンマーク戦などのつぶやきも、ぜひこの本で読んで思い出してほしい。
決勝トーナメントのパラグアイ戦、オシムさんはネクタイ、ジャケットなど全身ブルーで決めてきて、惜しくもPK戦で敗れた後には「かれらの心情は想像できる、私も一緒に戦っていたから」と残念がった。
ツイッターをフォローした人の数は、深夜から未明という時間帯にもかかわらず、数万人にのぼった。オシムさんの厳しいコメントに、優しさや励ましがこもっていたからこそ、共感を呼んだのに違いない。(実際はオシムさんが自分でツイートしたのでは、もちろんない。試合を見ながらオシムさんが発した言葉を筆者が訳し、それをスタジオ内のスタッフがツイートし、それを日本の「読者」が読み、コメントを返し……という流れである)
ワールドカップ期間中にオシムさんが発した数百件のつぶやきから厳選された百個余りのツイート。これらを、ざっと読むだけでも面白い。印象的な写真、試合のスコア、コメント、それらが複合的な相乗効果で何ともいえない「味」を出している。
もちろん、「ツイッター」になじみのない読者でも心配はご無用。手に取ってもらえば、本書の面白さはすぐにわかる。オシムさんのユーモラスな、そして時にはピリリと辛口の皮肉も利いたエスプリに感心したり、ニヤリとさせられることだろう。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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