――今は「文藝春秋」本誌の綴じ込みになっている「本の話」ですが、一昨年9月までは、独立した小冊子でした。1995年の創刊から足かけ17年にわたって表紙を飾ったのが、山本さんの銅版肖像画です。前半約7年分は『本の話 絵の話』(文春文庫)に、そして今回、後半10年分が『山本容子のアーティスト図鑑 100と19のポートレイト』にまとめられました。
17年のお仕事を振り返っていかがですか?
山本 40代はじめから、60歳を迎える直前までの時期です。これが20代や30代に描いたものだったら、まったく違ったものになったでしょうね。若い頃は、自分が尊敬するアーティストに近づこうとして、もっと貪欲でした。しかしある程度年を経てくると、私の絵を描く方法論が出来てきて、そこにピカソやロートレックといった私の大好きなアーティストたちを連れてきて、一緒におしゃべりしながら遊ぶ、といった感じで絵に向かっていったような気がします。
また、カバーにウィリアム・モリスが草の中に寝転んでいる絵を使っていますが、「自然」ということもテーマの1つになりました。作家が成熟期を迎えると、自然をモチーフにすることが多くなります。私自身もそうなのでしょうね。
――今回の本は119点のポートレイトに着彩したオールカラー本です。
山本 心が豊かになる、今時珍しいぐらい美しい本になったのではないでしょうか。かっちりした「画集」より、「図鑑」をイメージしました。図鑑って、最初に調べようとした項目を探しているうちに、ふと隣の項目に寄り道してしまう楽しさがありますね。同じように、ルイス・キャロルが好きでその絵を見ようとした人が、隣に並ぶ正岡子規を偶然知る、といったことがどんどん起きて欲しいんです。
ちなみにオリジナルの銅版画は、だいたい手札サイズの同じ大きさですが、この本の中ではあえて大きくしたもの、小さくしたもの、サイズをバラバラにしてあります。これは美術館で絵を見る時、自分が近づけば相対的に絵は大きくなるし、遠ざかれば小さくなる、あの感覚を味わってほしいからなんです。美術館の中をゆっくり見て回るように、この本の中を歩いてみてください。
またポートレイトと一口に言っても、全身を描いたもの、半身のもの、はたまた佐藤春夫のように顔全体が花と一体化しているもの……など様々です。また上から見たり、下から見たり、立たせたり、寝かせたりと構図やポーズを様々に工夫しました。そこに私のモデルたちへの、「偏愛」の所以が隠されていますので、探してみてください。