絵も「言葉」で描いている
――それにしても、藤沢周平、幸田文、白洲正子といった日本の作家から、サガン、ヘルマン・ヘッセ、デュマら海外の作家、そして画家、音楽家だけでなく、エスコフィエのような料理人まで、登場するアーティストたちの顔ぶれは多岐にわたります。
山本 少女時代から本に耽溺してきて、栄養をもらってきました。版画を制作する上でも、大きな影響を受けています。よく絵は感性で書くもの、と思われますが、どんなフレームを選び、どんな色を使うか、といった思考はすべて言葉(論理)によるものなのです。
影響を受けたアーティストたちへのオマージュをこめて、それぞれ200字ほどの短い文章をつけました。もっとも人の一生を200字に圧縮するなんてことは本来できません。その人から私が受けとった1つのイメージを、「補助線」のつもりで付け加えてみたのです。たとえば、マネといえば油彩で描いたアスパラガスがパッと思い浮かびます。そして彼が好きだったアブサン酒の薬草のような強烈な匂いも。その連想は、私の好きなエドワード・リアのナンセンスな言葉遊びにも似ています。もしかすると私だけの勝手な思い込みかもしれません。しかし、「こんな絵の見方、こんな本の読み方もできるのか」というオドロキを、広い心で共有して頂ければと思います(笑)。大げさにいえば、そういう多様な見方を持つことが、「批評」だと思います。
――ここまで壮観な人物一覧を見せられると、銅版画の実物も見たくなりますね。
山本 全作品を並べた展覧会をぜひやってみたいと思っています。若い人は、知らない作家や画家がいるかもしれませんが、自分の世界を広げるきっかけにしてほしいですね。