インタビューほか

新しい社会の機運を感じた

「本の話」編集部

『原発を止める人々―3・11から官邸前まで』 (小熊英二 編著)

 寄稿者の1人である外資系企業の部門長が、官邸前抗議の主催者たちを、「どんなことでも徹底的に話し合い、いざ纏まれば一斉に同じ方向を向いて走り出し」、「これほど自律的に動く素晴らしい人々は見たことがありません」と形容しています。おそらく各自が自発性や企画力があるから、政党や労組のようにピラミッド型組織にしなくても、ネットワーク型運動を形成できたのでしょう。電力会社に、旧来型の「日本の大会社」の弊害が顕著であるのとは対照的です。

 そうであるからこそ、官庁街の真ん中の、首相官邸の目前という場所で、1人の逮捕者も出さず、暴動も起きず、抗議行動が1年半も続けられているといえます。世界的にも稀有な現象ですよ。一般の参加者にも自己規律の精神が高いことは、万単位の人が集まっても、解散後にはゴミひとつ落ちていないことからわかる。その背景には、自分たちは世論の支持がある正しいことをしているのであって、反社会的な行為をしているのではないという意識もあるでしょう。

――脱原発の今後についてはどうお考えですか。

小熊 事故直後の段階から、産業構造の変化や世論の動向からいって、多少の紆余曲折や揺れ戻しはあっても、中長期的には日本から原発は消えていくと考えていました。60年代の運動について調べてわかったのは、昔のあり方を「守る」というだけの、逆行型の運動は決して成功しないことです。しかし現代の脱原発の運動は、個々の担い手が自覚しているかはともかく、社会の変化の流れを加速するものであって、逆行させようというものではない。今から補助金を注いで原発を推進するほうがよほど逆行的で、無理があるでしょう。

 人間は当人が自覚している以上に賢いもので、成功の見込みが全くないような動向には合理性を感じないし、支持も参加も広がりません。この運動の参加者に象徴される層は、良い意味でも悪い意味でも、この先伸びる部分だと感じます。そこに新しい社会が作られていく機運を感じたから興味を持ったのです。学者ですから、いろいろな社会現象に関心がありますが、どんな動向にも共感するわけではありません。それに今の日本で、将来の希望が持てそうな分野は、それほど多くはありませんからね。 

原発を止める人々
小熊英二・編著

定価:1950円+税 発売日:2013年09月26日

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