2013.10.23 インタビューほか

新しい社会の機運を感じた

「本の話」編集部

『原発を止める人々―3・11から官邸前まで』 (小熊英二 編著)

新しい社会の機運を感じた<br />

――反原発運動の現場に立ち、参加者の手記を集めた上で3.11以降の運動の流れを分析する、という今回のお仕事は、学者としては異例の手法かもしれません。

小熊 私の場合、今までの研究と違うことをしたという感覚はさほどありません。これまでの自分の研究は、昔の資料を読んで心が動いたことから着手しました。今回は、原発事故の1カ月後に高円寺でおきたデモに行き、「何かが起こっている」と強く感じたから、そのまま参加と観察を続けた。同じような体験をして詩を書く人もいれば、曲を作る人もいるでしょうが、私の場合は研究をします。また過去に60年安保や全共闘運動を研究したときに、当時の資料に良いものが少ないと感じていましたから、今度はきちんとした記録を残すとともに、その分析と同時代史を書いたわけです。

――東日本大震災に続く原発事故では、一般市民も巻き込んだ反原発デモが全国各地で起こりました。当初マスコミはそれを報道しませんでしたが、2012年6月の大飯原発再稼働決定を受け、首相官邸前で20万人規模の抗議行動が起こるに至り、「日本で初めて普通の人たちがデモに来た」との表現で報道されるようになった経緯があります。

小熊 市民が自発的に参加した運動そのものは、これまでもありましたから、その点で「初めて」とか「新しい」とは思いません。そういう報道は、ステレオタイプではない現象に接して、「新鮮」だったと言いたかったのでしょう。

 とはいえ歴史は繰り返すものであると同時に、常に一回性のものです。同じ現象でも、その時代なりの表れ方がある。

 たとえば60年安保の主力は「学生と労組員」でした。学生が自由な時間を提供し、労組が組織と設備などのインフラを提供したといえます。しかし今回、震災後の脱原発運動参加者の手記を集めて分析してみると、独立系のミュージシャンやウェブデザイナー、編集者など、企画的な仕事や知的な専門職が多かった。自分で起業した人や、外資系企業勤務者も目につきます。一昔前の主流だった、「学生と終身雇用の会社員/労組員」とは異なる人たちです。現代ではウェブの普及に伴って知的専門職が増え、「指示待ち」ではなく自発性と企画力が求められている。画像の収録や編集の技術も、平均的に上がっています。60年安保の時代と比べると、社会の変化とともに、運動の担い手も変化していますね。

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原発を止める人々
小熊英二・編著

定価:1950円+税 発売日:2013年09月26日

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