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「朝日」の体質を解明した画期的な本

「朝日」の体質を解明した画期的な本

文:佐藤 優 (作家・元外務省主任分析官)

『朝日新聞の中国侵略』 (山本武利 著)


ジャンル : #ノンフィクション

 政府に対して批判的な目を持つ面倒な存在であるが、いざというときにはもっとも政府にとって頼りになるという朝日新聞の内在的論理を山本武利氏は見事に解明している。山本氏の〈初代オーナーの村山龍平は平時はデモクラシー、戦時はナショナリズムを編集方針とすることを編集幹部に指示していたが、二代目の村山長挙にはリベラルな体質はなく、中国侵略を是認する国権主義的ポリシーを支持していた。緒方(竹虎)の体質も平時はデモクラシー、戦時は帝国主義という社論の矛盾に違和感がなかった〉(230頁)との指摘が問題の本質を衝いている。

 この朝日的な変わり身の早さは、太平洋戦争敗北時の『大陸新報』にも顕著に現れた。〈蒋介石は大陸の日本軍に対すると同様、新聞メディアにも重慶国民政府に従い、毛沢東の中国共産党に協力しないかぎりその身を保護する方針を即座に指示、徹底させたことがわかる。『大陸新報』は日本人と日本軍のスムースな引揚完遂を行うプロパガンダ新聞となり、居留民からみれば安全な内地引揚のための情報満載の復員新聞に転換することを奨励され、日本側はそれに嬉々として従ったことがわかる〉(219頁)。『大陸新報』で働いた朝日の記者たちは所与の条件の中で日本人同胞の帰国のために最大限の努力をしたのである。

 朝日が『大陸新報』に深くコミットした理由が経営判断にあるという山本氏の指摘も鋭い。〈創刊当初、『大陸新報』は成功するか、失敗するか予測できなかったが、「国策新聞」であるため資本提供の必要がなく、成功した際の利益は大きいと考えた。ローリスク・ハイリターンとの経営判断であった〉(233頁)。現在の新聞業は斜陽産業である。同時に現下の国際関係は各国が露骨に自己主張を展開するようになり帝国主義的色彩を強めている。朝日と政府が「共存共栄」を図る土壌が整っている。

 マスメディアは社会と国家をつなぐ公共圏を形成する。朝日が過去の歴史から学び、社会の側に軸足を置くことが重要だ。社会が強化されることによって、結果として日本国家が強化されるのである。評者は外交官時代、多くの新聞記者と付き合った。東京地検特捜部に逮捕されたとき評者の自宅から検察に押収された新聞記者の名刺は千枚を超えていた。その中で鈴木宗男事件の経験を踏まえ、心底信頼する記者は3人しかいない。そのうち1人が現在、朝日で責任ある地位を占めている(他は産経と共同)。この記者に本書を贈り、『大陸新報』に見られる経営の論理と国益観のグロテスクな融合について議論してみたい。

朝日新聞の中国侵略
山本 武利・著

定価:1995円(税込) 発売日:2011年02月24日

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