少年少女たちの憧れの職業として近年、急激に市民権を得つつある「声優」。その声優の世界に光をあてた青春お仕事小説が、この『声のお仕事』だ。20代後半にしていまだ代表作がない崖っぷち声優・結城勇樹が初の番組レギュラーを獲得し、その収録を通して成長する様が生き生きと描かれる。
著者の川端裕人さんが「声優」を小説の題材に選んだ理由はとてもシンプルで、心からこの仕事に魅了されたから。NHK総合で放送された「銀河へキックオフ!!」の原作を提供することになった(『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン――銀河のワールドカップガールズ』ともに集英社文庫)川端さんは、見学に訪れた収録ブースのなかで、まるで魔法のように作品に息が吹き込まれていく様を目にする。まさに、「声で世界が創られている」現場に遭遇したのだ。
「声優さん、面白い!」そう思った川端さんは即座に取材を開始。この本の巻末の謝辞で名前をあげられている声優さんや、アニメ業界の方々に話を聞いた。なかでも「オール讀物」に掲載される原稿に毎回感想とフィードバックをくれ、ずっと伴走してくれたのが井上優さん、坂巻学さんの二人。井上さんは「家庭教師ヒットマンREBORN!」など、坂巻さんは「サザエさん」などに出演し、声優として第一線で活躍している。
そんな二人に、声のお仕事の一端を見せてもらうことにした。新宿の某音声収録スタジオ。スタンドマイクの前に立った二人にまず読んでもらったのは、『声のお仕事』作中作の野球アニメ「センターライン」の導入部だ。「アバン」とも呼ばれるこの部分は、アニメのオープニングに入る、前口上のようなもの。
『声のお仕事』では、主人公の結城勇樹がはじめて番組レギュラーを獲得したアニメの初回放送を観る場面を、こう描いている。
画面の前で正座して、深々と息を吸い、吐いた。そして、目も耳も集中して画面に食い入った。
午前九時三〇分。いったん画面が黒くなり、無音になったかと思うと、強烈な陽光が差した。いきなりカッキンという金属バットの打撃音、そして、ザザザッとグラウンドを走るスパイクの音が続き、そこに声が被さった。
きみには、大きな夢があるか。(大島)
つなげたい、思いがあるか。(平川)
走れ、魂のオーバードライブ!(大島)
届け、怒涛のビームキャノン!(平川)
ともに白球を追う夏、センターライン!(二人)
売れっ子声優の大島啓吾と、ぼくと同じ事務所の平川信策先輩が、前口上を交互に述べて、最後で力強く声を合わせた。(第二章「声のフィッシュダンス」p48より)
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