野球アニメ「センターライン」を象徴するこの二人の台詞を、作品のなかに入った気持ちで実際に聞いていただこう。大島役を務めてくれたのが坂巻さん、平川役が井上さんです。
このアニメがすでに存在することを信じたくなるような、臨場感たっぷりの朗読に、収録現場は一瞬静まりかえり、そのあと二人に川端さんを含む見学者たちから大きな拍手がおくられた。
もうひとつ、声優の二人に実演してもらいたかったシーンがある。
それは結城が発声練習として行っている「外郎売」。演劇や、声の仕事をしている人にはお馴染みのこの早口言葉は、口が回るようになる薬を売る商人が、その実演として難しい口上を早口で披露する、というストーリーだ。作中ではこのように描かれている。
運河の方を見て、深呼吸して、なにはともあれトレーニングを始めた。
「――拙者親方と申すは、御立合の中に御存じのお方もござりましょうが、お江戸を発って二十里上方、相州小田原一色町をおすぎなされて青物町を登りへお出なさるれば――」
口をついて出てきたのは、歌舞伎の外郎売の一節だ。
滑舌を意識するために誰もがする基礎訓練である。外郎は「ういろう」と読むが、蒸し菓子ではなく喉に効く薬のこと。外郎売の口上で、実際に薬を服用すると、いきなり口が滑らかになって、早口言葉を立て板に水のごとくまくしたてる、という話。声優の訓練にはまさにぴったりだ。(第一章「声のお仕事」p27より)
黙読しているだけで舌が疲れてくるようなこの早口言葉。実際に朗読するとどのように聴こえるのだろうか。井上さんと坂巻さんのお二人が「苦手だったんですよね」「しばらくやってなかったなあ、やだなあ」と言いつつ、素晴らしい滑舌を見せてくれたのがこちら。声優の二人が読めば、早口言葉がお芝居として成立し、まるで音楽のように心地よく耳に響いてきた。
短い朗読を聴くだけでも分かったのは、声の仕事の現場にいるのが、まぎれもないプロフェッショナルたちだということ。アニメやゲーム、吹き替えられた外国映画などは、一作一作、彼らの力が結集してできている。その様子を余すところなく描いた『声のお仕事』を読んだあとは、きっと自分の耳がリニューアルされたような気持ちになるだろう。今まで何気なく聴き流していた「声」にも背景があることを知れば、そのひとつひとつを吟味したくなってしまうから。アニメが好きな人にも、知らない世界を覗いてみたい人にもぜひ読んでほしい、川端裕人さんの新境地となる作品だ。
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