──リアル恋愛が訪れた良香は、不毛な片思いの相手、イチに会ってみようと考える。「mixi」で別人になりすまして同窓会を企画して、イチをおびき寄せるとか、変わった行動に出ますが、二十代半ばくらいになると、以前より悪事もやぶさかでない、そんな感覚もあるのですか。
綿矢 学生の頃に読んだ本や漫画には、「自分の気持ちに嘘をつくな」などと書かれていて、「正直」がいいと思っていましたが、大人になると、考えを曲げざるを得ない場面が訪れる。第一に掲げていた理想が、ちょっとずつ平らになっていく感じはあります。頭で考える理想と身体は別もので、頭の声ばかり聞いていると、不健康というか、おかしくなることもあるんやなと。体力がなくなってきただけかもしれませんけど(笑)、最近、そう思います。
主人公の最後の選択が……
──主人公が暴走する場面は加速感がありました。さらに先の展開があり、やっぱり邪悪にならない方がいいという感覚はお持ちだったんでしょうか。
綿矢 割とインモラルに進むんですよね。主人公は独特のものを持っているけれど内向的で、周囲からずっとえらそうにされていた立場だから、〈ワルい方が強い〉という考え方になってもおかしくないわけですが、邪悪にならない方がいいというより、邪悪なことをしてしまった後の後悔。こんな後悔するくらいなら、やらへん方がいい、もあります。
──経理課のOLという、立場も生活も自分と異なる主人公を書いて、理解できた手応えは?
綿矢 最後に主人公がする選択が、私よりだいぶ大人っぽかったので、それは書いてみて生まれた、独自なものだと思いました。自分がこうしたいではなくて、文章に従って、登場人物の考えていることを剪定(せんてい)せず、伸び放題にして流れで進むことで、いい道筋が見えてくる。パターン化された小説にならないことにも関わってくると思います。最初は、何を考えているか分からへん主人公でしたけど、一人称で書いているから見やすかったですね。今回は、主人公も、他の人物も、声を聞くみたいにして書いていきました。
主人公は、十二年片思いをしてきた情熱を、相手のイチの方が絶対に持ってへんと分かっている。突然現われたニに対しては、自分の方に情熱がないのは分かっている。男性に読んでもらったら、本当にいやな子だなと言われました(笑)。伝わりにくい可愛げのある子なんです。この子の可愛げというのは、わがままなんですよね。女性は女性のわがままについて、自分の幼い頃の部分という感じで、同感、可愛いと受け入れられるんですけど。だから、人によって受けとめられ方が違うかもしれない。
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