──二十代半ばは、まだ不安定な年代ですね。綿矢さんは芥川賞を史上最年少で受賞していますが、プレッシャーは。
綿矢 プレッシャーは感じていたはずなんですが、三年くらい本が出ないとほとんど麻痺してきて(笑)、小説ができないことの方がプレッシャーです。この三年間、なかなか小説が完成しないというのは、暗かったです。いろいろアイデアがあって書き始めては、どこか栄養不足というか、話が育ちきらずに鉢植えをいっぱい枯らしてきた、そんな三年間でした。ボツ作品が続いた中、この話は壁にぶつかることがなく、半年くらいですっと最後まで書けました。何でやろ、何で完成しいひんのやろと思っていたから、この作品ができたときは本当に嬉しかった。編集の方に見せて、本が出せることになりました。やっぱり、本が出るというのはいいもんやなと、今回、つくづく思いました(笑)。他の作家の人に聞くと、自分でボツにした作品が一つはあるとか、そのくらいのレベルで、私なんて失敗してばっかりやから、凄いと思う。でももう、しょうがないかなと思いますね。当たるまで数を打つしかないんかなと思っています。同じ年頃の会社勤めの人の話を聞いていると、小説は、一人でやる仕事だと思います。とにかく自分で書く以外ない。
──デビューから九年。どんな年月でしたか。
綿矢 東京に出てきたのも大きかったし、いろんな人にも会ったし、私自身は、やっぱり、パソコンに向かっている時間が長かったです。文章ばかり考えて、文章に対する脳みそのキャパシティが大きくなってきましたが、数字とか、社会的なこととか、以前はもう少し偏りがなかったのが、この九年でだいぶ偏りました(笑)。世の中の変化については、凄い自然志向になりましたよね。九年前はお肉やファストフードがよしとされ、もっとパワフルやった気がします。今は五穀米とか、いいとこの野菜とか(笑)、バランスを考え始めているのかもしれない。はみ出していくパワーより、均一に五角形を作るみたいな感じが風潮としてあると思います。
──今後、どんな小説、どんな人物を書きたいですか。
綿矢 憧れる、こういうのが書きたい世界はありますが、のびのびしなくなるというか、長いのが書きたいと思ってそれにこだわるのは、違うと思うようになりました。本を読んだり、文章を考えていると、文章脳になりますね。無駄に文章脳になったらよくないですから(笑)、書いているうちに手数を増やして、生かせるようにしたいです。純文学も、だーっと読むミステリーも好きですから、自分の本も、読者に面白く消費してもらえるものになれば。思わず肩入れしたくなる人が出てくる話が私も好きですから、読む人が応援したくなるような人物が書けたら、一番いいなと思っています。
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