年末が近づくと書店には家計簿がずらりと並べられ、どこも人だかりになります。それだけ家計に対する関心が高いことの証ではありますが、そんな光景を見るたびに、家計簿をつけることが本当に家計に役だっているのかと、いつも疑問でした。
ためしに知人に聞いてみると、ほとんどの人からメモ書き程度にしか使っていない、という答えが返ってきました。よほど几帳面でない限り、家計簿をつけ続けることは大変な作業だなと思ったものです。
家計簿は、実際に使ったお金を、あれは水道光熱費、これは交際娯楽費と分類集計し、所定フォームに書き入れることで、家計の実態を可視化するための帳簿です。もちろん多くの人はこれをつけることでムダを省き、少しでも多く預金を貯め、資金繰りの悩みから解放されたいと考えているはずです。
しかし、せっかく買った家計簿もいつの間にかメモ帳に変わってしまっている……「もしかすると、つけたところで家計の収支改善に結びつかないのではないか」と薄々感づいていらっしゃる人も多いのではないでしょうか。
とはいえ、他にどうしたらよいのかわからないので、年末になるとまた家計簿を買ってしまう。これではいつまで経っても赤字体質から抜け出すことはできません。
会社の会計実務では、過去の業績を表す決算書を揶揄して「死亡診断書」と表現することがあるのですが、これは「終わったことをとやかく言っても過去はどうにもならない」という意味です。
にもかかわらず実際には、多くの会社が過去の実績をもとにして年間の予算を立て、決算期が迫ると無理やり売上を作り、経費を先送りしてまでも予算を達成しようとします。もちろん過去の実績に基づいて作成した予算を達成したところで、将来にはまったく結びつきません。何か問題が起きると、せっかく決めた方針をいとも簡単に変えてしまうのも、このタイプの会社です。
私のような管理会計を専門とする立場から言わせていただくと、こういった会社はほとんどの場合、長期的視点を持っていません。長期的視点とは10年先までの見通しのことで、其のはるか彼方に経営ヴィジョンがある……ヴィジョンはいわば北極星のようなもので、今がどんな状況であっても微動だにしない挑戦的目標です。
家計簿も過去の実績という点では同様です。
本来ならば家計簿の目的は、会社経営と同じように将来の夢を実現することでなければならないと思います。夢のカタチは人それぞれですが、いずれにしても夢を叶えるのにはお金が必要です。将来を見据えたお金の使い方を支援するために家計簿をつける――この当たり前のことがなぜかすっぽりと抜け落ちたまま、多くの人が家計簿をつけ続けているのではないでしょうか。
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