日めくり立ち読み『感受体のおどり』

第6番

文: 黒田 夏子 (作家)

登場人物紹介

 むりやりに夏をおしころしている雲の厚い日日がつづき,ときに照りつけると着せられているそろいの服がたえがたく蒸れ,小児たちの長い列はみだれがちににぶくすすんだ.

 話をすることは禁じられていたものの教員から遠いあたりではのべつにささやきごえがしていて,それが急に高まったのは飼い鳥をあきなう店のまえにさしかかったからだった.小禽たちの声もかさなった.目だつところに大きな猛禽の檻があって,毬犬(まりーぬ)の上きげんなひめいが聞こえた.きれいな色をした南の国の鳥たちもいた.

 列は店がわにくねりたわみ,もとのあたりにのこった私は一人だけはみでたようになって,ふとぎゃくがわの,車道とのきわのほうを見ると,死んだ魚でもいれるようなひらたい木箱が三つばかりつまれていた.かどをずらしてあるのがいかにも投げやりに見えたが,それは下づみの箱に空気をいれるためであるらしかった.なぜなら中にはおびただしい小禽がいたのである.

 にぶい移動をつづけながら,目におさめたきみのわるいものをもてあました.あみ目ごしに,おなじ大きさの緑いろの頭部の,箱の片がわの半ぶんたらずにひしめいているのが,きゅうりでもつめてあるように見えた.箱がすこしかしいでいたのであった.そうでなかったら押しあうほどのことはないだけ広いのに,鳥たちは疲れて踏みこたえられなくてじりじりと低いがわへずりよっていくらしかった.あいているがわではいくらかまばらで鳥と鳥とがふれあわないですんでいたが,かたよっていくまいと脚をふるわせて耐えているにもかかわらず日ざしに目もくらみ力つきてわずかづつうごいていく.弱いもの,またもともと低いがわにいた不運なものはなかまの重みと熱にいっそう弱りを速め,もうかなりの数が圧死していたのかもしれなかった.

 むれからぬけ,そろいのものをぬぎ,つめたい水を,日よけを.水平におきなおしてくれる手よりも,ともあれおのれ一わをこの非力な殺しあいから忽然と救いとる手が待たれてしまおうか.

感受体のおどり
黒田夏子・著

定価:1,850円+税 発売日:2013年12月14日

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