- 2008.06.20
- 書評
挑発する「27人のすごい議論」
文:樋口 裕一 (作家・多摩大学教授・「白藍塾」主宰)
『27人のすごい議論』 (『日本の論点』編集部 編)
ジャンル :
#政治・経済・ビジネス
そんな私が若者に薦めるのが、文藝春秋から毎年刊行される『日本の論点』だ。
この本はあくまでも「挑発的」だ。ここにはありきたりの「正論」は掲載されていない。もちろん、私はここに載せられている意見のすべてが正しいとは思っていない。腹立たしい意見もある。だが、間違いなく、これまで考えてもみなかった視点が示され、それまで自明と思っていた事柄が覆される。自分の考えを改めたり、考え直したりするヒントになる。そうすることこそが知の楽しみだろう。そうしてこそ、自分で考え、自分で調べてみる意欲がわく。これに挑発されて、若者が自分の意見を模索し、社会に向かって発信する意欲をかきたてられることを、私は願っている。
ところが、『日本の論点』には一つだけ大きな欠点がある。あまりに大部であることだ。そのために気軽に読むことができない。読書嫌いの若者からの「この厚い本を全部読まなければいけないのか」「これのどこを読めばよいのか」という質問が絶えない。その点、文春新書から刊行される『27人のすごい議論』はまさしくすごい。主要な問題点がコンパクトにまとめられている。
これまでに刊行された『日本の論点』のなかの最も重要で最も刺激的な二十七人の議論が収録されている。憲法に関する佐伯啓思氏の原則論や五五年体制についての立花隆氏の指摘は、現代を振り返る指針になる。金田一秀穂氏の「コンビニ敬語」についての考察、ジェンダー概念の矛盾を突く内田樹氏の論、環境問題についての武田邦彦氏と池田清彦氏の意見などは、それが正しいかどうかは別にして、マスコミによって作られた思い込みを覆してくれる。
しかも、世論を二分する問題については賛否両方の側からの意見が示される。裁判員制度についての、嵐山光三郎氏と北尾トロ氏の対立、「平等」についての内橋克人氏と竹中平蔵氏の議論も読み応えがある。
本書を読んで、若者が挑発され、刺激を受けて、様々な問題について自分の意見を模索することを望む。そうすれば、考える楽しみが増えるだろう。友人と議論して、考えをもっと深められるかもしれない。
そうすることが、現代日本の知的レベルの向上に、そして、日本社会の成熟にもつながるだろう。もちろん、それは若者だけではなく、私自身を含めた壮年の人間にも無関係なことではない。
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