――執筆で気を遣われたことはありますか。
古川 同郷人だからこそ、ベッタリとしないで、一定の距離を保って書くということは意識しました。お国自慢になっても仕方がないし、それでは普遍性が失われ、全国の人に読んでもらえない。同郷人としての体温が伝わるかどうかの距離感で書きたかったのです。
――ある程度、突き放して書かれているにもかかわらず、生々しく、人間くさい乃木像が立ち上がってきます。
古川 乃木自身の日記にも、若き日に街で飲んだくれているような、いわば無頼といった雰囲気の出来事が頻繁に出てきます。連日の芸者遊びなども詳しく書いているのが乃木らしいところで、そのあたりもかなり率直に書きました。また、子どもの頃に左目を失明していた事実も書きました。本人がほとんど語っていませんから知られていませんが、母親が蚊帳を外す時に吊り手の鉤が目を直撃したのです。それを物語る隻眼鏡も残されています。さらに江戸時代、麻布藩邸で暮らした、ひ弱な少年時代のことも、くどいと思われるくらいに書いた。
日露戦争については、旅順戦で乃木の第三軍司令部が28サンチ榴弾砲について「送るに及ばず」という電文を出したことが批判されますが、この電文が実は誤読されていたこともわかりました。乃木の自決も妻を道づれに無理心中のような成り行きではなかったことを、歴史的なディテールとともに触れました。
史実を丁寧に書き込んでいくことで、軍神でも愚将でもない、等身大の乃木希典が描けたのではないかと思います。
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