話を本書に戻すと、中国の女性に共通して言えることは「中国の女は強い」の一言に尽きる。この強さはもちろん、厳しい自然と政治体制、体制による格差に支配された中国の「場」が鍛えあげたものだ。その鍛えられた中国の女たちが「漬物甕」からはい出して、女性尊重文化が根付いた台湾に来たときに発揮する生存競争力は目を見張るものがある。
例えば「栄民に嫁ぐ中国人花嫁」だ。「栄民」とは、蒋介石が連れてきた国民党軍の退役兵士たちで「栄誉国民」と呼ばれた。故郷に戻れず、高齢で台湾に身よりもいない彼らに対しては手厚い恩給や住居が終身与えられる。その恩給や不動産を狙って栄民の老人たちに嫁ぐ中国人花嫁が数年前から台湾の社会問題となっている。最初の栄民夫と死別すると、すぐ別の老栄民に嫁ぎ、まるで就職先をジョブホップするような感覚で栄民との結婚を繰り返すケースも多い。わずか十三年で計三人の老栄民に嫁いで不動産二軒を相続したほか、三人目の結婚相手と同居中といったケースも新聞で読んだことがある。調べてみると、二〇一三年二月時点で、中国人女性と結婚した栄民の数は一万六千人以上。中国人花嫁のうち栄民と二回以上結婚したのは千三百五十六人に上ったとか。腹立たしいというよりも、中国人女性の強さに驚嘆するしかない。
蒋介石政権以降の台湾では、学校教育は中国語(普通語)で行われた。そして中国から才能ある強い中国人女子が大勢やってきた。中国人女子と競って勝たなければ台湾人女子は高等教育を受けられない。台湾語を母語とする台湾人女子にとって、中国語を母語とする中国人知識階級の女子と競い合うことはもともと不利。しかも教師も外省人。 高校になるとクラスで台湾人の占める割合は二割に減った。クラスで幅を利かせる外省人に台湾人は反抗できない空気があった。ある日、作文の授業で「外省人と内省人の感情的対立を無くすにはどうすればいいか」という課題を出されたとき、恐れを知らない私は「入学試験がすべて中国語で行われるのはフェアではない」「台湾人は外省人に庇(ひさし)を貸して母屋をのっ取られたという思いがあるので、その点を外省人は意識すべきだ」と、思うところをそのまま書いた。この作文は回し読みされ、その日からクラス中が私を無視するといういじめにあった。そういう環境の中で、外省人相手に勝ち抜いてきた数少ない台湾人が、格別タフで優秀な人材でないわけがない。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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