書評

「中国の女、台湾の女そして日本の女」──「場の力」が女を創る

文: 金 美齢 (評論家)

『中国の女』 (福島香織 著)

 私は本書を読みながら、亡き夫・周英明の言葉を思い出していた。

「中国人は才能豊かな人は少なくないが、中国国内ではなかなか発揮できず、それは外の世界に出たときに開花する」

 なぜか。一つに中国は人間が多すぎる、ということ。そして国土が広すぎる。そのため、チャンスが不平等で格差が大きくなる。本書の中にはそれこそ千差万別の女性が紹介されている。同じ国の人間とは思えないくらいの格差がある。エイズになっても男の子が欲しいと赤ん坊を生み続ける貧困農村の女性から、大富豪や動物愛護のセレブまで。ただこの女性たちの中で一つ言える法則があるとすると、才能を開花させ自分らしさを見つけ、成功したと言えるのは、中国の外に出た経験がある人ばかりだということだ。製紙業の大富豪も動物愛護運動のセレブも漫画家のパイオニアも人権活動家も八〇后(バーリンホウ)作家も海外に飛び出して、その才能に目覚めた。そして底辺の売春女性たちも、日本人と結婚して外にでれば人生の転機が訪れると信じている。

 台湾外省人作家の柏楊氏がその著書『醜い中国人』(光文社)で中国のことを「漬物甕(がめ)文化」と指摘している。中国ではいかなる才能のある人も、ドロドロの中国文化に漬け込まれてしまい、鮮度が失われて同じにおいのする「漬物」になってしまう。あの土地を離れて、「漬物甕」から出た人だけが、本来の自分の個性や才能を発揮できるのだ。

 そう考えると台湾に来た外省人というのは、まさに「漬物甕」から這い出て、多少の自分らしさを取り戻した人たちである。日本に来て、日本語学校を経営していて気が付いたのだが、台湾から来た中国人(外省人)と中国から来た中国人は、同じ中国人でも、そのメンタリティや行動原理において似て非なる、やはりまったく違う人々だった。

 台湾は南方の気候の穏やかな土地柄であり、しかも半世紀の日本統治を経て、日本的精神・文化の影響を受けている。そこに米国的な価値観が輸入された。この米国的なるものをもたらしたのは皮肉にも国共内戦に負けて台湾に逃げ込んできた国民党の蒋介石だった。

 こういうと語弊を生むかもしれないが、蒋介石は一つだけ台湾に良いことをした。それは「女性尊重(レディファースト)」をもたらしたことである。それまでは台湾の男女格差は歴然だった。台湾に逃げ込んできた蒋介石はじめ中国人は、高等教育を受けた思想的にアメリカナイズされた人が多く、日本統治によっても変わることのなかった台湾の男尊女卑的な部分を劇的に変えていった。

 例えば、日本統治時代に創られた台北市立第一女子高級中学(北一女中)は、戦後、中華民国政府に接収されたのち、台湾の女子高等教育の拠点として整備がすすめられ、台湾大学への進学率を比較すれば男子進学校の建国中学に優るほどのエリート校となった。当時の日本の女子高等教育よりも公立女子校は水準が高く、多くの女性エリートを養成した。その筆頭が陳水扁政権時代の呂秀蓮・元副総統、陳菊・高雄市長、そして若い世代では先の総統選挙で民進党候補となった蔡英文さんだろう。また台湾の女性実業家で台湾高速鉄道の初代会長も務めた殷琪さんは浙江省籍の外省人だが台北生まれで、中国人だが「漬物甕」の外で生まれ育ち、その才能を開花させた典型例と言える。

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潜入ルポ 中国の女
福島香織・著

定価:588円(税込) 発売日:2013年08月06日

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