2011年3月11日は日本人にとって生涯忘れられない日になるに違いない。東北を襲った大地震と大津波、そして福島第一原発の事故。昭和の敗戦以来の国難という表現も、決して大袈裟ではない。しかし、その後の流れを見ていると、どこか奇妙な既視感を拭えないのも事実である。
原発事故の収束に目鼻がつかないために、原発を今後どうするかに関する議論が専門家・素人を問わず激化しているけれども、電力会社や政府の秘密主義は国民の不信を招くばかりだし、対する脱原発派にもいい加減な情報で不安を煽る人物がいる。どちらにもある程度までは理があるように見え、にもかかわらずどちらの主張も全面的には信用出来ない――この状況は、かつての原発草創期と大して変わらない。1980年代に反原発論で鳴らした広瀬隆が再び脚光を浴びている現状は、ここ30年ほど、原発をめぐる対立の構図が実は変化していなかったことの証でもある。
馳星周の新作『光あれ』は、敦賀原発で警備員として働く青年・相原徹の、中学生時代から現在にかけてを描いた連作である。もちろん福島原発の事故以前から書き継がれていた作品だが、結果的に本書は、今に至る「原発の日本史」と言うべき経緯を、ひとりの若者の青春に絡めて描いた、極めて予見性の高い小説となっている。
収録作は作中の年代順に並んでいるわけではないけれども、ここでは敢えて時系列に合わせて徹の半生を追おう。彼は原発推進派の高圧的な父親、原発を恐れる母親、ひきこもりの兄という家庭環境のもとで生まれ育つ――原発のある地域においては、決して特殊とは言えない家庭であろう。中学生時代には友人たちとサッカー部に所属して活躍したが、クラスメートへの初恋は惨めな終わり方をする。それと前後して、ソ連ではチェルノブイリ原発事故が発生し、原発をめぐる大人たちの対立は激しさを増す。