拙著『マイルスvsコルトレーン』は、前述の『カインド・オブ・ブルー』で共演しているマイルスとジョン・コルトレーンの関係にテーマを求め、2人の交流と変遷そして激動の時代を、多くのミュージシャンや関係者の証言とともに筆者なりにブラッシュアップ(再構築)したものである。
疾走するコルトレーン
デビュー以来、常にジャズの最前線に君臨し、ジャズの可能性を押し広げ、変化をくり返し、前進しつづけたマイルス。いっぽうコルトレーンは、マイルスと同じ年に生まれながら、先の『カインド・オブ・ブルー』が示しているように、長くマイルスが率いるグループのメンバーとして活動、それによってリーダーとしてのデビューが遅れ、さらには早世したことによって「薄幸の巨人」というイメージがつきまとっている。
はたしてマイルスとコルトレーンは、一般に定着している「明と暗」の典型のような関係だったのだろうか。マイルスだけがはるか先を進み、コルトレーンはそのマイルスの背中をみながら歩を進めたのだろうか。2人の人気と評価の実態とは、どのようなものだったのか。そしてコルトレーンがマイルスを追い抜いたことは一度もなかったのだろうか。
マイルスとコルトレーンに関する有名なエピソードとして、次のようなものがある。自分の演奏がどんどん長くなっていくコルトレーンが「どうしたら短くできるのだろう」とこぼした。コルトレーンとしては「言いたいことを簡潔に表現するにはどうすればいいのか」と悩んでいたのだろうが、それに対してマイルスはこう答えたという。「マウスピースを口から離せ」。やがてコルトレーンはマイルスのもとから独立、遅れを取り戻すかのように疾風怒濤(しっぷうどとう)の勢いで疾走する。高まる人気と評価、そのときマイルスは……。 「ジャズはマイルスから」と、くり返したい。そしてコルトレーンが参加したマイルスの作品がさらに理想的と考える。『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』、『クッキン』をはじめとする通称マラソン・セッション4部作、『マイルストーンズ』……。それらのCDのとなりに拙著があれば、これ以上の喜びはない。さあ、ジャズを、マイルスを、コルトレーンを。
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