この物語は、アーモンド入りのチョコレートのようだ。口当たりは甘くて心地よいのに、その芯には固いものがあり、力を込めて噛み砕かねばならない。噛み砕いて初めて、チョコレート全体を味わうことができる――。
『静(しずか)おばあちゃんにおまかせ』を読みながら、そんなことを考えた。
本書は、葛城公彦(かつらぎきみひこ)刑事が出会った不可解な事件の謎を女子大生の高遠寺円(こうえんじまどか)が解く――と見せかけて、実は解いているのは彼女のおばあちゃんという構成の連作短編集だ。
安楽椅子探偵のおばあちゃん、というとミス・マープルを筆頭に、長年にわたって培われた生活の知恵と経験をもとに事件の謎を解く、という様式が多い。今回も『静おばあちゃんにおまかせ』という軽快なタイトルから、そういった生活感溢れるコージーなテイストを予想される向きもあるだろう。そして確かに、孫とおばあちゃんの会話や、葛城刑事と円のヤキモキ恋愛の進展など、暖かでユーモラスな描写がそこかしこにちりばめられ、和やかな空気が全編を覆っている。
だが、それだけではない。
円の祖母・静は日本で20人目の女性裁判官で、退官して四半世紀も経つというのにその信念と洞察力には一片の揺るぎもない女丈夫である。したがって従来のおばあちゃん探偵とは各所が異なる。円経由で持ち込まれるのがれっきとした刑事事件であるということ、そして推理のベースには法と社会と正義があるということ。
特に、持ち込まれる5つの事件がどれも「組織」と「正義」の物語であることに注目されたい。
警察とヤクザの癒着を扱った第1話に始まり、カルト宗教にハマった女性を助け出す話、建築現場での殺人事件で外国人作業員が容疑者として捉えられる話、1度犯した過ちを「組織の迷惑になるから」という理由で隠蔽する話など、いずれも自分が所属する団体や職場や国籍の論理だけで善悪を判断してしまうことが事件につながる話ばかりだ。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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