- 2010.12.20
- 書評
不易と流行を追求して二十年、考える手がかりとして
信頼度No.1を誇る「本書の使い方」
文:「本の話」編集部
『日本の論点2011』 (文藝春秋 編)
ジャンル :
#趣味・実用
実践的な使い方
本書に対して、かつて次のような賛辞が寄せられました。
〈九三年に初めて『日本の論点』が刊行された時、私ほど喜んだ人間はそれほど多くないのではあるまいか〉(「本の話」二〇〇五年十二月号)
筆者は、二十年以上、大学受験予備校や自ら主宰する塾で小論文指導を行っている第一人者、樋口裕一氏です。独自のメソッドは高く評価され、多くの受験生の支持を集めていますが、そのメソッドを実践するには前提が必要だと、樋口氏は述べています。〈社会的な関心と知識は必要だ。それらがあってこそ、与えられた課題の意味が理解できる。的確に問題点を判断できる。しっかりした論拠を示すことができる〉と説くのです。
その「社会的関心と知識」を養うツールこそが、本書なのです。樋口氏はこう続けます。
〈このような生徒たちにとって、『日本の論点』ほどありがたい本はない。
ここには、現代日本のかかえる問題点が網羅されている。これ一冊を読むだけで、少なくとも社会系の学部のほとんどの小論文試験で出題されそうな問題点が理解できる〉
また高校教育の現場にも本書は浸透しています。群馬県随一の伝統校、県立前橋高校では、入学した一年生全員が本書をテキストとして、「現代社会を見つめる」をテーマにした総合学習の授業に臨んでいます(「進学校における『総合的な学習の時間』の授業実践」)。
こうした高い評価は、何も大学受験対策用だけではありません。
大学受験以上に厳しさを増している就職活動、いわゆる「就活」にあたっても有効です。
〇八年秋のリーマンショックによる企業の業績悪化によって、翌年四月入社予定者の「内定切り」が続出し、一〇年三月の大卒者五十四万一千人のうち、就職した卒業生は約三十三万人。就職率は六〇%近くにまで低下しています。
こうした社会情勢を反映して、近年、公務員試験などの人気が復活しつつあります。この就職試験対策にも本書は大いに役立ちます。大阪国際大学の安保克也准教授は、本書について自身のブログで学生たちに向けて、
〈2・3・4回生は全員、購入して読むべき本です。1回生でも、公務員試験や教員採用試験などを受験する者には、必読書です〉(〇九年十二月十九日付)
として、就活に関してこう力説します。
〈この本を読まないようでは、その瞬間から、皆さんの運命は決まったのです。(中略)小論文や作文のネタ(タネ)本なので、出題者の出題意図を知ることができます。ネット検索で得られる「知識」ではないことが特徴なのです〉(同前)
右に引いたいくつかの例には、一つの共通点があります。本書執筆陣の見解を丹念に読み深めることで、読者の側が「考える手がかり」を得ることができる、ということです。小論文試験も、就活も、いわんやビジネスの現場でも、求められる答えは、一通りではありません。相手の意図を読み取った上で、自分自身で導き出すものだからです。
本書には「考える手がかり」として、まさに新書百冊分の情報と見識が凝縮されています。仮に一冊七百円の新書を百冊買うとすれば、ご予算は七万円。それと比べて本書は、
〈寄稿者は118人、定価2980円である。寄稿者1人当たりのページ数は6・5、価格は25円だ。あきらかに「お、ねだん以上」だ〉(成毛眞ブログ 一〇年十一月十九日付)。
これを機に、ぜひ本書を手にとって見てください。そして、過去の議論にさかのぼって知りたい際には、インターネット版「日本の論点PLUS」にアクセスを。直近十四年分、総計二千人、二千本の論文をお読みいただけます。
これもまた、日本人の見識を養うための「本書の使い方」なのです。