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解説――権力はなぜ腐るのか

解説――権力はなぜ腐るのか

文:永江 朗 (フリーライター)

『コラプティオ』 (真山仁 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

 三人がどうなっていくのか、とりわけ宮藤隼人がどのような政治家になり、どのようなことを行うのかについては、あえてここに書かない。読者自身で読んで確かめていただきたい。多くの読者は、最後の最後で怒りと絶望を味わうだろう。そしてわずかな希望も見出すだろう。そこにいたるまでは、ページをめくるのももどかしく感じるほど、ノンストップで楽しめる。政治という題材が、こんなにも上質なエンターテインメントになるとは驚きだ。

 本作のストーリーには触れない。そのかわり、なぜコラプティオ=腐敗が起きるのかについて少し考えてみたい。

 腐敗はなぜ起きるのか。それは、人間に欲望があるからだろう。

 欲望と言ってもいろいろある。食欲や性欲は生理的なものだ。逃れられないけれども、満たされればおさまる。おさまらないとすれば、それは病気だ。異性問題で地位を失った政治家もいるが、よほどバカだったのか傲慢だったのか。

 金銭欲は個人差がある。不思議なことに、持っているお金の量と金銭欲の強弱はあまり関係がない。生活に困らないだけのお金を持っているのに、もっとお金をほしがる人がいる。逆に、貯金もほとんどないのに、やたらと気前のいい人もいる。困窮してコンビニ強盗をする人もいるが、横領や詐欺をはたらくのはお金に困った人ばかりではない。政治家の汚職事件が定期的に起きる。新聞の政治面は選挙活動や派閥工作に現金が必要だったなどと解説するが、そんなに金がかかるのならなぜ政治家になるのか、なぜ派閥工作をするのか。

 名誉欲はどうか。これも個人差がある。何かの団体の役員に選出されるために、涙ぐましい努力をする人もいるし、名刺に肩書きをたくさん並べる人もいる。その一方で、賞のたぐいはできるだけ辞退するという人もいる。名誉欲のない政治家はいるだろうか。ほんとうに名誉欲がなかったら、政治家ではなくべつの形で社会に貢献しようとしたのではないかと思う。

 欲望はつきないが、多くのものはコントロール可能だ。だが、さまざまな欲望の中で、最も自覚しにくく、そして抑えがたいものが権力欲ではないだろうか。しかも権力は国家単位の巨大なものから、家庭内や友人間の小さなものまであらゆるところに存在する。人間が二人以上いればかならず生じうる。いや、私たちはたとえひとりでいても、犬や猫を相手に権力欲を満足させようとするのかもしれない。

 国会議員を辞めて、のちに首都の知事になった作家は、かつて私のインタビューに応えて、代議士よりも自治体の長のほうが直接的に権力が行使できる、とその魅力を語った。もっとも、彼は知事を辞めて、代議士にもどったのだけれども。

 金銭欲や名誉欲をうまく手なずけていると思っている人でも、じつは知らず知らず権力欲には蝕まれているのではないか。権力を行使することの快感は、何ものにも代えがたい。

 私自身のことを告白しよう。天下国家とは関係ない、うんとちっぽけな話だ。

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文春文庫
コラプティオ
真山仁

定価:979円(税込)発売日:2014年01月04日

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