インタビューほか

猟奇殺人、恐竜学、そして孤島の監獄

「本の話」編集部

『アルカトラズ幻想』 (島田荘司 著)

猟奇殺人、恐竜学、そして孤島の監獄

――物語は、第二次大戦勃発直後の1939年11月、アメリカのワシントンDCから始まります。
 森の中で発見された女性の遺体は、木に吊るされ、女性器の周りをぐるりとくり抜かれ、股間から内臓(膣や子宮、膀胱等)が垂れ下がっていた。凄惨な連続猟奇殺人事件です。

島田 女性の体を、あのように損壊する第1章(意図不明の猟奇)のインパクトは非常に大きかったようで、最初に原稿を読んだ編集者も、「いや凄いですね」、「面白い!」と興奮気味でした。私としては第一章は、単に異世界への導入のつもりだったのですが、男たちがソフト帽をかぶっていたこの時代の雰囲気が好きなんですね。だから彼らの会話やしぐさが手に取るようで、筆がつるつる走ってしまった。刑事たちの世界のディテールに、つい本気の力が入ってしまって、だからあの事件で終始するハードボイルドを期待されてしまったんですね。

――やがて事件は、1つの重要な手がかりによって解決に向かいます。それが第2章の表題にもなっている「重力論文」です。ジョージタウン大の大学院生、バーナード・コイ・ストレッチャーが執筆したこの論文は、恐竜にまつわる謎に、独自の解釈を提案しています。この解釈は、島田さんのオリジナルだそうですね。

島田 恐竜学に、長い間本気の興味を持ってきました。「重力論文」にも書きましたが、恐竜の最大のミステリーは、その巨大化にあります。

 ジュラシック・パークでおなじみの大型肉食恐竜ティラノサウルスは、現在のゾウと同程度の体重ですが、それを支える脚はゾウの半分の2本で、しかもゾウと較べると細い。したがって、ティラノサウルスにゾウ程度の運動能力があったとは考えにくい。骨や筋肉の材料が同じなら、立っているのがやっとのはずです。とても四駆車を追ってなど走れない。そうなら、敏捷な小動物を毎日捕食できたはずがないのです。彼らもゾウのように、草食に甘んじるほかない。しかしそれでは肉食用の大型の鋸歯(きょし)や、噛み砕くための巨大な顔面筋、小動物が入った糞の化石が説明できない。

 草食恐竜アパトサウルスは、全長32メートル、体重は推定40トン。首の長さだけでも13メートルあったといわれます。超重量に対し、アパトサウルスの4本の脚も細い。また彼らは、異様に長い首や尻尾を、終始水平方向に伸ばして生活していたのです。関節の構造から、首を煙突のように垂直には立てられない。彼らの寿命は100年です。100年間もそんなことを可能にする筋肉は、自然界には存在しません。

 極めつけは翼竜で、この仲間には、体重が100キロ以上、翼の左右幅が11から12メートルに達するものがいました。

 現在、地球に生息する最大の鳥類はアホウドリの仲間で、彼らは翼の左右幅が3.5メートル、体重は12キロ程度。これが滑走なしの羽ばたき離陸ができる、ほぼ限界なんです。また、持続的な巡航飛行が可能な鳥類の体重は、最大40キロが限度と考えられています。筋肉は大型化するほど早く動かない、これが現在の科学の結論です。すなわち体重100キロの翼竜は、絶対に空を飛べないのです。こういう矛盾に対する答えは、1つしかありません。

――これ以上はネタばらしになってしまいますので、これくらいで。
 さて、猟奇殺人事件の犯人として逮捕され、裁判にかけられたバーナードは、西海岸のサンフランシスコ沖に浮かぶ、アルカトラズ監獄に移送されます。実際に島田さんは、アルカトラズ島を訪れたことがあるそうですね。

島田 もう20年くらい前でしたかね。ロサンゼルスに住むようになってすぐ、サンフランシスコに観光に行って、船で島に渡って監獄跡を見学しました。以降も何回か行きました。

 それから「ザ・ロック」とか、「アルカトラズからの脱出」といったアルカトラズ映画を観ているうち、だんだんにこの作品が思いつかれたという感じです。だから、20年以上温めてきた構想ということになりますね。

――やがてバーナードは、囚人仲間の脱獄計画に巻き込まれ、心ならずも刑務所の外に逃れて、そこでポーラと名乗る謎の女性に助けられます。そして島の地下にある“パンプキン王国”に匿(かくま)われるのですが……。ここからの展開は、まさに予測不能、驚愕の結末が待っています。

島田 異世界ですね。これが監獄島の地面に、思いがけず口を開けていたわけです。あとは本篇で(笑)。

アルカトラズ幻想
島田荘司 ・著

定価:1995円(税込) 発売日:2012年09月22日

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