「炊き出しに来てくれても、それっきりの若者がすごく多い。二十代や三十代の人たちが特にそう。援助を断ったり、自分で何とかすると言って呼びかけに応じなかったり……。どうしたらいいんでしょう」
初めて直面する事態に、奥田氏は困惑を隠しきれなかった。
私たちはこの炊き出しの会場で、一人の男性に出会った。三十二歳。大分県の精密機器メーカーで派遣社員として働いていたが、派遣切りにあった。仕事と住居を失った男性は北九州市に流れ着き、当初はネットカフェを転々としながら仕事を探していたが、やがて資金も底をつき、公園で寝泊まりをするようになった。職を得ようとハローワークに通っても、ただでさえ未曾有の不景気のなか、住所と携帯がなければ仕事の面接さえできない状況だった。私たちが出会ったときは、二日に一個のパンをかじりながら、飢えをしのいでいた。
「半分にちぎって、とにかくあごを動かして、味わいながら食べてます。そうした方が、食べた感じがするから……」
こうした状況にありながらも、この男性は決して誰かに助けを求めようとはしなかった。故郷の実家に親はいるけれども、いまさら助けてなんて言えないという。
「何が悪いって、自分が悪い」
自分が仕事を失ったのも、公園で寝泊まりをするようになったのも、すべて自分の責任だというのだ。もっと頑張れたのではないか、あのときもう少し頑張っていれば……。
「頑張りの足りなかった自分に活を入れたらよかった」
男性を苦しめていたのは、“自己責任”の呪縛だった。
私たちは二〇〇九年七月に「九州沖縄インサイド」、そして十月に「クローズアップ現代」で、こうした「助けてと言えない三十代」をテーマに放送を重ねた。すると、思いもよらぬ大きな反響が私たちを待ち受けていた。この時の「クローズアップ現代」の視聴率が十七・九%と、「クローズアップ現代」の十七年の歴史のなかでもベスト10に入る高視聴率だったのだ。「オウム真理教」や「阪神淡路大震災」など大事件、大災害が軒並み視聴率の上位を占めるなか、一種奇異なできごとだった。
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