「助けて」
たった一言、この言葉を伝えることができず、孤独死した男性がいた。二〇〇九年四月、福岡県北九州市の自宅で、人知れず亡くなっていた男性の年齢は三十九歳。所持金はわずか九円で、家の冷蔵庫の中には何も食べるものがなく、餓死したと見られている。遺体の傍らには一通の手紙が残されていた。そこには一言、「たすけて」と記されていた。
なぜ男性はその手紙を誰にも出すことなく、孤独死してしまったのか。頼るべき家族、友人はいなかったのか。働き盛りのはずの三十代、仕事はなかったのか。
男性は、学生時代は柔道やラグビーに打ち込み、友人の多い、まじめで活発な青年だったという。亡くなる数ヶ月前まで熱心に働き、職場での評価も高かった。これといった持病もなかった。しかし、孤独死。なぜ?
私たち取材班は、男性の足跡を追った。そして、予想もしなかった事態に直面することとなった。半年余りに及ぶ取材から見えてきたものは、バブル崩壊以降、“失われた十年”を生き抜いてきた今の三十代という世代が人知れず背負わされてきた、現代社会の十字架だった――。
取材を進めていくと、男性は仕事を失って以降、生活が追い込まれていたことがわかった。しかし、男性は、そうした状況を、家族や友人に一切、伝えることはなかった。最後のセーフティネットといわれる生活保護も申請していなかった。「どうしてもっと頼ってくれなかったのか……」。男性に最後に会ったと見られる知人は、男性の窮状に気づけなかったことを、いまも悔やんでいる。
「助けてと言えない若い人たちが増えています」
北九州市で二十年以上、ホームレスの支援に携わっているNPO法人「北九州ホームレス支援機構」の奥田知志代表はこのように言う。奥田氏のNPOでは、ホームレスの人たちに弁当を配ったり生活の相談に乗ったりする“炊き出し”を定期的に行っている。この“炊き出し”に、二〇〇八年のリーマン・ショック以降、派遣切りなどにあった若い人たちが急増しているという。こうした若者たちと接するなかで、奥田氏の胸の中では、ある一つの思いがくすぶっていた。
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