さらに、反響はインターネット上にも現れた。番組に共感する声が、三日間で二千件ものブログに書き込まれたのだ。
「一歩間違えれば自分もという思い。他人事ではない」
「明日は我が身」
「自分がだめだから、もっとがんばれば。心に刺さります」
書き込みの多くは同じ三十代によるものだった。共鳴する三十代の声は、「助けてと言えない三十代」というテーマが現代の一つの確かな断面であると確信させてくれた。その一方、まだ見ぬ深層があるのではないかとも気付かせてくれた。一体どんな三十代が番組に共感を寄せてくれたのか。一人一人訪ね歩く日々が、やがて次の番組につながっていった。
「助けてと言えない三十代」。気がつくと、この報道は六本もの番組となっていた。長期間一つのテーマを追うことが他のメディアより比較的頻繁に見られるNHKのなかでも、その数は圧倒的に多いものだった。今年五月、「目撃! 日本列島 あなたは独りではない~30代ホームレスと向き合う~」の放送で、取材を始めて一年が経とうとしていた。
そんな折、書籍化の話をいただいた。願ってもない話だと思った。自分たちの取材が出版という形で世に出る喜びももちろんある。しかし、それ以上に、“助けてと言えない社会”が変わってほしいと思うようになっていたからだった。
「クローズアップ現代」にも出演していただいた作家・平野啓一郎氏には、自身も三十代であることから、三十代が抱える危機、そして“助けてと言える社会”への処方箋を提示していただいた。「三十代は、自己実現と自己責任を強く叩き込まれた世代」「一つの失敗は自分すべての失敗ではない。異なる局面では好きな自分がいるという“分人主義”でなら、助けてと言いやすいのでは」。三十代はどう生きればいいのか、平野氏は本書で明快に、そして優しく提案する。
どうすれば「助けてと言えない三十代」を救えるのか。前出のNPO法人「北九州ホームレス支援機構」の奥田氏による活動も本書では紹介させていただいた。奥田氏は、「三十代のホームレスには伴走する支援者が必要なのだ」と、街の片隅で途方に暮れる三十代を探して、夜回りを行っている。差し伸べた手を振り払われることも多い。それなのになぜ活動を続けるのか。奥田氏はこう答えてくれた。
「だって、助けてと言えない社会は、寂しすぎますから」
ぜひ一人でも多くの方に本書を手にとっていただき、そのことが“助けてと言える社会”を築いていく一助となれば、これに勝る喜びはない。
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