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戦後を生き抜いた愛すべきはずれ者たちの悲喜劇

戦後を生き抜いた愛すべきはずれ者たちの悲喜劇

「本の話」編集部

『笑い三年、泣き三月。』 (木内昇 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #小説

――たしかに戦争体験は三者三様ですね。中年の万歳芸人・岡部善造が、自分は30年以上も旅芸人一座で下積みをしたのだから、戦争も終わったことだし、東京で一旗あげようと能天気に上野に降り立つところから物語がはじまります。

木内  今でいえば定年退職して趣味に生きる、みたいな感覚かな(笑)。まず、戦争の悲惨な部分を経験しなかった人を出そう、というのがあったんです。善造は苦労をしていない訳ではないのですが、空襲の体験はないし、一座の門付け芸は戦前戦中に田舎では有難がられ、面白がられた。自分の芸に対する疑問を抱かずに済んできた人です。ずっと旅をしているから食料調達とか調理術などの生活力はあって。

――浅草寺で屁をひって子供たちを笑わせ、善造から「平賀源内先生も研究したという伝統芸の継承者」と誤解され相方にと望まれてしまう鹿内光秀ですが、信長でも秀吉でも家康でもなく、なぜ親は自分に三日天下の武将の名前を付けたのか、不審に思いながら生きている人物です。

木内  彼は単細胞で乱暴な人ですが、芯があるんです(笑)。万年映画青年で、撮影所で働いていた戦前はエロ・グロ・ナンセンスの傑作を監督してやろうという夢があった。南洋の島から片耳を失って復員してきた今でさえ、実はその夢を捨てていない。ミリオン座の掃除係兼照明担当で終わるつもりはないんです。大きなことがあっても価値観が変わらなかった人物が書きたかった、というか。

――彼は「笑い」にも一家言があって、毒のない、温かな善造の芸を嘲笑しますよね。
 3人目の田川武雄は東京大空襲で家族を失った戦災孤児ですが、この小説は彼の成長小説とも読めますよね。

木内  そうですね。本当は、善造や光秀と疑似家族のようにして暮らすうちに、反発したり反抗したりしながら子供だった武雄が大人になっていく、という風にしたかったんです。でも、武雄は家族を失って1年以上を一人で生きてきて、とても突っ張っているのが最初ですよね。腹の虫は鳴き止まず頭の中は古新聞で仕入れた知識で一杯。バランスの悪い、子供大人だった彼が、だんだんと、ちゃんと周囲に油断が出来るようになって、大嫌いな光秀と一緒であってさえも、道路で大泣き出来るようになる。子供がどんどん子供らしくなっていくお話になりました。

笑い三年、泣き三月。
木内昇

定価:本体820円+税発売日:2014年05月09日

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