──そういうところも、堂場さんのなかではチャレンジに満ちた作品であるということですね。
堂場 今回は、主人公に濃いキャラクターを期待されると、すこし違うかもしれません。ただ、キャラクターとしては、つまらない奴にならないよう気をつけています。正直なところ、小説的には難しいキャラクターに設定してしまったのではないかと少し危惧しているんですが(笑)。
──とはいえ冒頭の、働き盛りの男性警察官が昼休みに食堂でスーパーのちらしをチェックし、献立を考えているシーンは、かなり印象的ですが……。
堂場 私も普段していますけど(笑)。自分も料理が好きなので、小説のなかでもよく取り入れるんですが、いままでだと、趣味的な料理が多かった。でも今回は、とくにレシピが一般的というか、子どもと食べるための料理ですね。そういうところにも大友という人物が出ているかも。
──これまで、主人公の同僚にも魅力的なキャラクターを描かれていますが、主人公の家族が、これだけ日常的に前面に出てくるのは珍しいですね。特に、「お婆ちゃん」と呼ぶと機嫌が悪くなる聖子さんも印象的です。また、息子の優斗くんも、素直でかわいらしい子ですね。
堂場 聖子さんに関しては、警察の同僚ではないキャラクターで、これだけ特徴的なキャラクターを出したのは初めて。優斗は、これから反抗期を迎えたり難しい時期にさしかかっていくでしょう。今後は、優斗が全面的にかかわる事件も書いていきたいし、聖子さんとの距離感も、徐々に変化していく。事件がきっかけで、大友の価値観や、親子の関係性が変わってくるという話も考えたいと思っています。毎回、聖子さんは見合いの話を持ってくるでしょうし、そのあたりの女性関係も今後、楽しみにしてほしいと思っています(笑)。
──仕事のほうでは、捜査一課時代の元上司である福原という、若干おせっかいな理解者もいますね。
堂場 職場や、前の捜査一課の連中からすると、育児のために仕事を半分下りた大友という存在を、腫れ物扱いしてしまったり、少し醒めた目で見ていると思います。その上、警察という男性社会のなかでは、まだまだ、男性の子育てについての理解がない。このままだと、家庭の事情で、優秀な刑事が埋没して終わるかもしれない。そういう大友の置かれた非常に特殊な立場に目をかける上司が一人いるだけで、大友にも可能性が残る。福原については、そういう事情を理解してくれる理想の上司を描いてみたかった。
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