──今回の『アナザーフェイス』では、銀行員の息子が誘拐され、その身代金受け渡しが、五万人の東京ドームコンサートのなかで行われるという壮大な事件から、物語が始まります。この意外な受け渡し場所と大胆な手口に、まず驚かされました。
堂場 誘拐事件で身代金の受け渡しは、普通、人目につかないところで実行することが多い。ただ、人ごみにまぎれてしまえば、五万人のなかから一人抽出するのは、非常に困難なはず。たとえるなら、木を森に隠すような感覚でしょうか。
──たしかに、五万人を危険にさらすケースはあっても、五万人を利用してそのなかで犯罪を行うというのは、珍しいですね。堂場さんというと、これまで、眠れない書店員が続出した「刑事・鳴沢了」シリーズや、最近、連続ドラマ化された「警視庁失踪課」シリーズ(ともに中公文庫)など、警察小説の旗手として知られていますが、今回の作品は、特に異色の警察小説とうかがっています。
堂場 今回は、事件もキャラクターも含め、新機軸(笑)。タイトルがカタカナの警察小説も自分としては初めてですし、意識的に物語の構成なども変えています。展開がこれほど速いのは、自分の作品では珍しい。冒頭から事件が発生して、一気に物語がトップギアに入ります。
──その主人公の大友は、妻を亡くして育児のため、捜査一課から、刑事総務課へ異動を申し出た一児の父という、刑事としては、少し変わった設定ですね。
堂場 今までは二十四時間、刑事という人間ばかりを描いてきたんですが、決して、刑事がそういう人たちばかりではないわけで、もうちょっと生活感があって、一般社会人としての良識がある人を書いてみたかったんです。やっぱり、百パーセント刑事という奴ばかり書いていると疲れるんで(笑)。小説で、人物造形していくときに、極端な話、半分の人に嫌われても、半分の人が好きになってくれれば、そのキャラクターは成立すると思っているんですが、今回は、その枠をもっと広げてみたらどうなるだろうと思ったんです。
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