──どちらかというと、大友が今、置かれている環境というのは、ワーキングマザーが常日ごろ抱えている問題に近いかもしれませんね。
堂場 シングルマザーはマスコミで話題になることが結構ありますが、シングルファーザーが話題になるのは、非常に珍しい。でも、実際にはたくさんいらっしゃるわけですよ。ただ、実際は、もっと育児は大変ですよという人もいると思う。そうなると謝るしかないんですが(笑)。そういう点も含めて、いままでとは毛色の違う作品なだけに、どういう読まれ方をするのか、批判も含めこれからが楽しみです。
──福原だけでなく、同期の柴も、義母の聖子さんも、それぞれのやり方で、大友のことを心配しているようですね。やたらと見合いを勧めたり(笑)。
堂場 それは、大友の持つ生来の人懐っこさのようなものが、出ているのかもしれませんね。そこにも、彼の能力の一つが表出しているわけです。基本的には、みな、大友に優しい。自分の小説は、組織の対立構造の狭間に入り込んで抜け出せないといったものとは違って、組織に甘いところがあるんですが、それは、身内に甘いとされる警察という組織への皮肉もこめている。身内への甘さは、度を越せば不祥事につながるので。
──堂場さんの警察小説は、構図として一般化された組織と個の対立にとどまらず、もう一歩踏み込んでいますね。
堂場 それは、会社と会社員も同じで、お互いに寄りかかりながらも、上司や会社を全面的に信用しているかというと、決してそうではない。私自身、会社員をしながら執筆していることもあると思うのですが、その感覚が作品に染み出してきているのかもしれませんね。働いていれば、イヤなこともあれば、いいこともあるというのは、ほとんどの人が持っている感覚だと思うんですが、警察小説の場合、普通の人が知りえない特殊な仕事なだけに、妄想をかきたてる(笑)。
──堂場さんは、たびたび「妄想」がキーワードとして出てきますね。執筆上でもまず、妄想から入るそうですが、イメージとしては体育会系のイメージが強いので意外ですが。
堂場 体育会系妄想派ですよ(笑)。三百六十五日妄想、百パーセント妄想です。小説家における一番重要な能力は妄想力だと思ってますから。妄想から立ち上げた嘘を平気で書きつつ、小説的リアリティを常に考えている。矛盾かもしれませんが、自分の中でも相反するところ、せめぎあうところで物語が生まれてくるんです。
──最後に、『アナザーフェイス』の続篇刊行が来春のデビュー十周年に向けて、すでに決まっているとのことですが、次回は、どんな物語になる予定でしょうか。
堂場 今回同様、少しねじれた話で、今までにありそうでなかった状況を作り出したいと思っています。そのなかで、ジョーカーとして投入された大友がどう動いていくのか。『アナザーフェイス』とはまた違った展開の話をお届けしたいと思っています。
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