- 2014.04.22
- 書評
毒のあるユーモア
文:佐藤 優 (作家・元外務省主任分析官)
『中国化する日本 増補版 日中「文明の衝突」一千年史』 (與那覇潤 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#政治・経済・ビジネス
〈江戸時代というのは中国史でいうと「明朝」ですから、就ける職業はイエごとに決まっています(それが身分制というものです)。(中略)
宋朝以降の中国と比べると信じがたいくらい不自由な社会ですが、しかし逆に日本史の文脈においてみると、排他的に占有できる職業や土地があって、アガリを世襲することも認められているから、欲を張らずそれさえ愚直に維持していさえすれば子孫代々そこそこは食べていける家職や家産が、ようやっと貴族と武士だけではなく百姓にも与えられたということになる。今日の日本語でいう「やっと自分も一国一城の主」というやつです(もう少し学問的にいうと、中世の「職の体系」が近世の「役の体系」に受け継がれた、となります。尾藤正英『江戸時代とはなにか』)。〉
ファシズムに警鐘
このような調子で、『岩波講座日本通史』で展開されているアカデミズムの標準的な見解を読者にわかりやすく咀嚼し、提示している。同時に記述には適度の毒が加えられている。與那覇氏が「中国化」と名づける世界システムに忌避反応を示し、思考を停止している人に向けた以下のメッセージだ。
〈むりやり日本を「再・再江戸時代化」するには、要するに「北朝鮮化」しか方法がないのです。というよりもむしろ、建国当初に「江戸時代化」したまま一切の変化を拒絶して、来るところまで来てしまったのが現在の北朝鮮だということもできます。
(中略)北朝鮮のあの特異な体制というのは、李朝の儒教原理主義的な王権や檀君神話があったところに、帝国時代の日本の天皇制や国体論、戦時下の総力戦体制や軍国主義、独立後はソヴィエト=ロシアのスターリニズムや共産中国の毛沢東主義……といった、近代の北東アジア全域からさまざまな経路で流れ込んだイデオロギーのアマルガム(ごった煮)です。〉
日本がグロテスクなアマルガム国家になってはならないという與那覇氏の警鐘だ。與那覇氏は、現実の政治から極力距離を置く姿勢を示しているが、毒のあるユーモアという武器を最大限に駆使してファシズムに警鐘を鳴らすリベラリストなのである。
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