犬はしあわせを運んでくる天才だ(描きおろし) |
ところが犬はどうだろう。なーんにも考えずに、人間を微笑ませる。
犬との日常のなかで、突如姿を現すしあわせの数々。たとえば私が寝室に布団を敷く準備をする。犬が気配を聞きつけてやってくる。掛け布団の端を持ちあげ、ふわりと敷き布団の上にのせる瞬間に、二頭がダッシュして滑り込んでくる。あんたらは闘牛かい! 笑いながらマタドールのように背筋を伸ばし、布団をめくりあげしあわせ気分に包まれる。
あるいはクリスマスプレゼントにおもちゃをあげたとき。赤と緑のボア生地の骨型のヌイグルミをふたつ。いっせいに放り投げて好きなものを選ばせた。大喜びでおもちゃに飛びつく二頭。それぞれくわえると、夢中になって遊びはじめた。うらんはコーコツとした表情で仕込んである笛をぴゅうぴゅうと鳴らす。クロえもんは一カ所に歯をたてて一生懸命噛みついている。「ちょっと貸して」クロえもんのおもちゃに手を出そうとすると、ずりずりと身体をのせて隠し、ぺろぺろと舐めてくる。心地よいくすぐったさに手を引っ込める。続いてうらんのおもちゃをとろうとすると、うらんは笛を鳴らしながらぺろんと腹をだす。なんてかわいいヤツだ、ほっこりしつつ腹を撫でる。
はたと気がつく。二頭ともじつに友好的な撃退法を知っている。私だったら、おもちゃを取り上げようとする手を追い払うために、唸ったり、噛みついたりするだろう。
うちの犬は、すごいなぁ、ほれぼれして、幸福感に包まれる。そんなとき、はたと「犬はしあわせを運んでくる天才だ」と思う。
しあわせに形はなく、うっかりしていると存在しているのに、わからない。感じることである、と犬から教わった。
犬と暮らすようになって十七年ほど経つ。日々、犬を尊敬するうちに、いつしか私は、犬のような人間になりたい、と思うようになった。いまに犬のように、周囲にしあわせを運ぶ天才になれるだろうか。
せめて尾っぽが生える時がくるまで、この本が読者にしあわせを運んでくれますように。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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