寄せられたたくさんのメールの中から選んだ1通を机に置き、マイクに向かう。他に原稿は無い。彼女の前には誰もいない。
テーマ音楽と共に「こんばんは。精神科医の香山リカです」と話し始める。正面を向き、身ぶり手振りを交えて。
私たちは副調整室から彼女の横顔を見ている。語っている先には、明らかに相談相手が座っている……。
今日も香山さんは25分間ノーカットで話をまとめた。
誰もが抱える心のつまずきを精神科医としての彼女がトークと音楽で解きほぐす。
週末の夜にちょっと疲れた心を癒すようなラジオ番組を提供したい。
多忙な香山さんが快く引き受けてくれた「香山リカのココロの美容液」(NHKラジオ第1毎週金曜夜9時30分~9時55分)は昨年の4月に放送をスタートさせると直ぐに反響を呼んだ。
番組にメールを送ってくる人の大半は、自分自身や家族との問題に1人で悩んできた人たちだ。圧倒的に女性が多い。
例えば、30代の女性から、「大手企業を辞めて故郷で看護の勉強をしています。OL時代の仲間は結婚したり、シングルで海外旅行を楽しんでいたりと華やかな生活。週末の夜など、1人でいると“私、いったい何をやっているのだろう”というむなしい気持ちに襲われます。すぐに人と比べてしまうこんな私に活を入れてください」といった相談。
これに対し香山さんはユングの「無意識は意識に対してその偏りを補う」という説を私たちにも分るように使って、心の構造を解き明かしていく。
「寝ている間に見るさまざまな夢が私たちにメッセージを送ってくれたりする。(中略)さらにユングは、起きているときの空想や白昼夢も大切にしようといってます。これは、すごくオモシロイ」
香山さんは自身の怠け癖も紹介しながら、
「計画通りにやればいいってもんじゃない。むしろぼんやりする時間が大事なんだって、ちょっと休むときの開き直りにも使えます(中略)失敗や迷いをいけないことだと決めつけずに、この時間にも私の無意識はいろんなエネルギーを得ているんだなあと思った方がいい。自信を持って素敵な看護師さんになって」と投稿者を励ます。