書評

元中国大使が見つめた
尖閣、バブル、そして日本

文: 丹羽 宇一郎

『北京烈日 中国で考えた国家ビジョン2050』 (丹羽宇一郎 著)

40年後の日本に思いを馳せる

 私の愛読書である、中国の元時代の役人が書いた『為政三部書』は、先見性の重要性を鋭く指摘しています。

〈世の中の現実に起きている出来事はわかっていても、これから先に何が起こるかはわからないのが一般の人だ〉

〈家が火事になってから火勢を強めてしまう薪を移動したり、舟が沈没しかけてから救命具を買うようなもので、そうなってからではどんな対策を講じても間に合わない。先手先手と対策を立てていけば何ら憂慮することはない〉という旨、記されています(『全訳 為政三部書』安岡正篤 明徳出版社)。

 では日本にとっての重要な先見性とは何か。その最大のテーマは世界人口が大爆発する時代に逆行して、日本の人口が激減してしまうことです。

 これから40年後、すなわち2050年には日本の人口は4000万人も減る。そのことは知識としてわかっていても、ではどんな世の中になるのかと具体的に思い浮かべることは難しい。1年で100万人、およそ富山県が1つずつ無くなっていく現実がすぐ目前に迫っている。そんなときに、マネーを増やして企業の見せかけの利益を積み上げたり、全国に公共事業を展開し新幹線や高速道路を張りめぐらすことにどれほどの意味があるのか。これからの日本はインフラの「強靱化」ではなく、「整理整頓」の勇気と決断の時代を迎えようとしている。これだけ人口が減っていくのに、果たして「成長戦略」なるものが描けるものでしょうか。

 その将来の現象を想像し、我々の社会はいま何を目指すのかを考えるべきです。

 そのうえ、世界の人口爆発から食料危機についても考えなくてはなりませんし、エネルギーとライフサイエンス、2つの分野での革命が起こることも視野に入れなければなりません。

 繰り返しになりますが、領土、主権、防衛は国家の一大事であることに違いありませんが、別の角度からの柔軟な思考も働かせるべきです。

 40年後、今の小中学生が日本の働き手の中心となる頃、世界の中での日本のプレゼンス(存在感)はどうなっているのか。その姿を想う時、我々が今何をすべきなのか、その輪郭が浮かんでくるはずです。

 たとえばある企業が1つの工場を新設する場合、減価償却に40年かけるとすれば、ひじょうに高い稼働率で回していかなければ、設備投資する意味がない。成長を求められない世界で、日本中の企業が工場を増設する方向に動いたら、どうなるのか。税金を投入してまで成長を目指すのは妥当な判断だろうか。私に言わせれば、自殺行為としか思えません。今こそ知恵を出さなくてはなりません。

 あらためて考えてみてください。今の子供たちの将来のために、幸せな国家にする道を、我々がぼんやりとでも指し示すことができないようでは、いい歳をした大人は何のためにこの世に生を受けたのか。顔をそむけたくなることにも勇気を出して直視し、痛みに耐えてでもこれからの子供たちのために、今こそ身命を賭する覚悟が必要ではないでしょうか。

 そうしたやむにやまれぬ気持ちで本書を書き上げました。40年後の日本を考えるうえで、読者の皆様に僅かなりとも共感をいただければ幸いです。

北京烈日

丹羽宇一郎・著

定価:1365円(税込) 発売日:2013年05月25日

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