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真珠湾攻撃の八日前、<br />山本五十六の打った大バクチとは?

真珠湾攻撃の八日前、
山本五十六の打った大バクチとは?

「本の話」編集部

『山本五十六の乾坤一擲』 (鳥居民 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #ノンフィクション

──それはつまり開戦の謎を解く、ということであろうと思います。スリリングな謎解きの一部始終は本書を読んでいただくとして、なにかヒントとなる挿話があれば教えてくださいませんか?

鳥居  ヒントになるかどうかはわかりませんが、三人の男の、まことに示唆的な言葉をご紹介しましょう。一人目は木下杢太郎(もくたろう)。かれは一八八五年、明治十八年生まれですから、開戦の年には五十六歳です。医学者としてはそのとき東大医学部教授、かたわら美術史を研究し、詩を詠み小説や戯曲を著した才人でした。敗戦わずか二カ月後の十月に病死するのですが、同年二月十七日、日記に興味深い一文を記しています。 「大東亜戦争は其の勝敗に対する危惧よりも、其の発端の理由が明らかでなかったことを痛むものである」

  政府当局は、アメリカ・イギリス・中国・オランダによるABCD包囲網に追いつめられ、自存自衛のためにやむなく戦さをはじめたのだと盛んに宣伝しましたが、木下は騙されませんでした。「いったいなんのためにはじめた戦争なのか、それがわからない」と、かれはひとり密かに恨んだのです。

  二人目は、昭和十一年の二・二六事件で辛くも命拾いをした当時の首相、岡田啓介です。開戦時七十三歳。昭和十八年の正月にはもはや勝ち目はないと見て、和平派の首相経験者たちと共闘して東條内閣打倒の運動を起こすのですが、昭和十六年の十月七日、日米戦争は避けられまいとの空気がいよいよ大勢となりつつあったときにはこう言っていたのです。

「国内問題は決心一つでどうにもやれる。外国関係にてへまをやると国家百年の累(わずらい)となる」

  決心一つでどうにもやれる、と岡田が思った“国内問題”とはいったい何だったのか。

  三人目こそ本書の主人公であり、日米戦争に一貫して反対の立場であった山本五十六連合艦隊司令長官です。開戦時五十七歳でした。昭和十五年九月の日独伊三国同盟締結に際して、結局は賛成してしまった海軍首脳を批判して、こんなことを口にしています。 「陸軍との争いを避けたいから同盟を結んだというが、内乱では国は滅びない。戦争では国が滅びる。内乱を避けるために、戦争に賭けるとは、主客転倒もはなはだしい」

  山本はかくのごとく、日独伊三国同盟が日米開戦の呼び水となる危険性を見通していたのですが、では、ある人物をして戦争に賭けさせた“主客転倒”とはなにか。これこそが本書の重要な主題のひとつとなっているのです。

──最後のページを閉じたとき、読者はそれらの答えを知ることになるわけですね。どうもありがとうございました。

山本五十六の乾坤一擲
鳥居 民・著

定価:1700円(税込) 発売日:2010年07月28日

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