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苦手な旅を書いた理由

苦手な旅を書いた理由

「本の話」編集部

『僕らが旅にでる理由』 (唯野未歩子 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #小説

──初めて衿子とラーさんが出会う場面で、衿子は歯痛に身悶えするラーさんに「もっとも痛みを散らせる方法だろうと考え」、「セックスとかしましょうか?」と提案します。ラーさんはそれに応じず、かわりに衿子を旅に誘いますが、衿子のこの言葉にはとても驚きました。衿子は堕胎手術を受けた後の身体なのに……。

唯野  衿子はあの時点で愛情やセックスの本質がまだわかっていなかったと思います。現実にいる女の子も、衿子と同じような言葉を結構すんなり口にしてしまっている気がしますが、本質的なことはやはりわかっていないはず。違う男の子と付き合うたびに、痛みがどこにあるのかわからないまま傷まみれになっていく女の子が、その混沌とした状態からどうやって抜け出し、いかに自分自身を獲得するのか……今回はそのことを「混沌」と「再生」という言葉を直接使わず、旅というモチーフの中で書きたかった。その結果として、この長さの寓話という形式になったと思います。

──家をでた衿子は、赤羽駅でラーさんと待ち合わせて、電車で旅にでます。赤羽からまず籠原、そして高崎と、二人の旅は不思議な方向に進み始めますが、旅の行程はどのように決めたのでしょうか。

唯野  最初に決めていたのは旅の終着点を和歌山にするということでした。和歌山には『さヾなみ』という映画の撮影でしばらく滞在したとき、独特の雰囲気を感じたことがあって、ぜひ最後のシーンにしたいと思いました。出発点を赤羽にしたのは、やはり映画の『三年身籠る』のスタッフがそこに住んでいて、現地で見て教えてくれた「ロバに間違われる馬」のエピソードが面白かったからです。実際にその話は物語の中にも書きました。

──あの描かれていた「盲導馬」のエピソードは本当だったのですね。

唯野  そうです。だから終着点と出発点をまず決めて、そのあいだの行程を、なるべく紆余曲折がある意外なものにしたかった。和歌山に行くだけなら、飛行機を使えばすぐですが(笑)。この旅の目的はきれいな所や面白い所にいくことではありませんから、例えば高崎から松本、そして四日市に向かってもいいわけです。

僕らが旅にでる理由
唯野 未歩子・著

定価:1600円(税込) 発売日:2009年08月07日

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