──女優業、監督業、そして脚本の執筆と、幅広い活動をなさっている唯野さんですが、小説の刊行は今回の単行本が四冊目となります。映画化された『三年身籠る』、女子高校生たちの姿をリアルに描いた『正直な娘』、短編集の『走る家』と比較すると、今回の『僕らが旅にでる理由』は、文体や手法の点で大きく異なる印象を受けました。そもそもこの物語の構想はどこから得られたのでしょうか。
唯野 この作品は初めての雑誌連載で、内容も編集者の方と相談していく中で決めてゆきました。私はずっと映画の仕事をやっていて、どちらかというと何かを人から提案されて物づくりを始めることが多いのですが、今回も編集の方から「(題材に)旅なんてどうでしょう?」と仰(おっしゃ)って頂いたところから始まっていると思います。私自身は旅が苦手で、人に連れて行かれるばかりなのですが(笑)、だからこそどうして旅が苦手なのか、書きながら考えてみようと思いました。
──二十一歳の歯科医大生の主人公・衿子(えりこ)には月曜から金曜まで曜日ごと異なる恋人がいて、ある日父親が誰かわからないまま妊娠、そして堕胎手術を受けます。その後衿子は、日曜日に実家の高山歯科医院にやってきた「ラーさん」(本名白井友之・四十歳・男性)に誘われ、あてのない旅にでることを決意します。ラーさんは「あいしてる」がなぜかいえません。物語のこの導入部分には、痛みと浮遊感が同時に存在していて、とても魅力的な始まりを感じました。
唯野 今回は意識的に寓話を書こうと思っていました。最初に書いた『三年身籠る』も寓話ですが、その後二作リアルに女の子を描いたものが続いたので、このタイミングで何か寓話を書けないかと。曜日ごと異なる恋人がいる女の子は実際にはなかなかいないと思いますが、現実に存在する女の子も「産むこと」の周辺で大変な思いをしているはず。傷ついた女の子が物語の中でどのように再生してゆくのか、そのきっかけを旅にしたかった。
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