──なるほど。そう言える平和の中に身を置いていたい、ということですね。
喜多 ええ。高校を卒業してから七年間会社勤めをして、二十五歳の時に上司にお見合いをお願いして、半年後に結婚していました。それから先年離婚するまで、ずっと専業主婦です。
──書き始めたきっかけというのは。
喜多 娘がハネムーンベビーで、新婚生活を楽しむ間もなく、ずっと子育てに追われていました。子供が三歳になったとき、スーパーのアンケートに答えようとして、漢字が書けないことに唖然(あぜん)としました。このままではいけない、と思いまして、カルチャーセンターに通わせて欲しい、と主人に頼みました。月に二回、隔週の教室でした。
──それが文章教室だったんですか。
喜多 「手紙の書き方」とか、文章作法を習うつもりで行ったんです。そうしたら初回でいきなり、次までに小説を書いてこいと言われました。でも、実際に書き上げて提出したのが私一人だったんです。
──何枚ですか。
喜多 十五枚です。そうしたら先生が「書くのは初めてじゃないでしょう」とおっしゃった。小説としての体裁が整っていたらしいんです。
──どんなお話だったのですか。
喜多 姪(めい)の視点から、伯母さんとひとまわり年下の夫の交流を描いたものです。
──今回の『秋から、はじまる』の原型みたいですね。
喜多 似ているかもしれません。若い夫に先立たれた伯母さんが、四十九日の法要のあと、姪に、死の床での彼とのやりとりを話すんです。
──カルチャーセンターの次は、日本大学国文科を通信教育で卒業されました。これが大変だったとか。
喜多 四年で修了するというのが家族との約束だったので、一単位たりとも落とせない。主婦業はきりがなく、勉強の時間を捻出(ねんしゅつ)するのに苦心しました。でも、何とかすべての課題を期日までに提出し、卒業論文は二番の成績でした。
──すごい!
喜多 今、編集者の方とのやりとりでも、締め切りは絶対に守るし、内容へのアドバイスにも素直に従うことが多いです。真面目にやるしかないと思っているので。
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