──北海道のお生まれですね。
喜多 八雲という、函館のそばの町です。
──第一作『アイスグリーンの恋人』をはじめ、札幌や知床など、北海道で暮らす人々の喜びや哀しみを描き続けてこられました。
喜多 私、勝手に北海道観光大使を自認しているんです(笑)。
──第二十五回らいらっく文学賞を受賞されたのが二〇〇四年ですが、四十歳を越えていらっしゃった。早いデビューとはいえません。でも、子供のころからお話を考えることが大好きだったとか。
喜多 ええ。初代リカちゃん人形が出たころだったので、いまは夏で、今日は午後からお買い物、夕方からはパーティーですとか、色々な設定を考えていました。
──発売元のタカラ(現タカラトミー)の決めた細かい設定を無視して?
喜多 そう。ここは無人島です、食べるものは海か山でとるしかありません、さあ晩御飯はどうしましょう、なんて、妹たちと遊んでいたのです。
──四人きょうだいの一番上ですよね。
喜多 はい。十歳のころ、母を亡くしました。
──そういえば、この『秋から、はじまる』にしても、前二作にしても、母親というものの影が希薄ですね。
喜多 そうかもしれません。実母という教科書を失ってから、いつも本を読んで人生の問題を解決してきました。小説は勿論のこと、哲学書もよく読みました。
──書き始めたのは三十歳からだとか。
喜多 父も私が二十代の頃に亡くなったのですが、この人が大酒飲みで、頼りなくて。彼のせいで結構起伏に富んだ前半生だったので、完璧な主婦になりたかったんです。
──完璧な主婦?
喜多 完全無欠な主婦ではなく、「見事なほど平凡な主婦」という意味です。うちの旦那の給料、ほんとうにお安くて困っちゃうのよね、とか愚痴っているような。