──在学中に日大文芸賞も受賞されました。
喜多 あれは賞金ねらいで、三十万円あったらスクーリングに行けると思って。
──あの作品は二十五枚ですよね。
喜多 男と女のいとこ同士の話。成長した二人が、子供のころ一緒に遊んだ祖母の家で久しぶりに再会するんです。成就しなかった初恋の話、かな。どっぷり甘いんです。
──その後、数年おきに札幌市民芸術祭奨励賞、らいらっく文学賞を受賞されていますが、すべて短篇ですね。
喜多 長篇は、デビュー作の編集者に二百八十枚以上の恋愛小説を書くように、と要求されて初めて書きました。恋愛、したことないのに。
──ええっ。『アイスグリーンの恋人』では、気づかぬうちに女に惚れている街金業者の心理が見事に描かれていましたが。
喜多 読書と妄想の賜物(たまもの)です(笑)。亡くなった父は、どうしようもない人でしたけれど、私が結婚する時に、向こうの家に「この子は何も欲しがらないから、本だけは読ませてやってくれ」と言ってくれたんです。
──第二作『知床の少女』は高校受験に失敗した都会の少女が北海道で、祖父の知人である鮭の加工場経営者一家に預けられ、生きる意欲を取り戻すお話です。
喜多 真面目なビルドゥングスロマンです。
「苦労」を嫌う不完全燃焼の女たち
──そして今回の第三作『秋から、はじまる』ではユーモア溢れる作風に変わりましたね。主人公は仕事一筋で生きてきて、四十七歳にして初めて恋に落ちるストッキング販売会社社長「リッちゃん」ですが、脇にも魅力的な人物たちが登場します。まず語り手である姪の「樹里」。彼女の“苦労したくない、楽しいことだけやっていたい、でも最近なんだか虚しい”という脱力した感じ、勘のよさ、甘え、どこか純粋なところなど、今の若い女性の典型が描かれている気がします。
喜多 社会人になったばかりの娘がおりまして、彼女や友人たちの話を参考にさせてもらっています。
──樹里の合コン話のくだり、楽しく読みました。
喜多 あれもかなりの部分、実話です(笑)。
──もう一人印象的なのが、樹里の長電話友達の主婦「芳江さん」です。とても頭がいいのに、絶対に責任ある立場に身をおかず、安全地帯から批評ばかりしている。生活に不自由はないのに、いつも不機嫌。「主婦なんて芝居してなきゃ、やってらんないよ。ダンナしか客のいない飲み屋のママみたいなもん。究極のサービス業なんだから」が口癖で。友人の不倫騒動にも推理をめぐらして彼女の予言があたるあたり、怖いですねえ。
喜多 この人もモデルありです。専業主婦の世界には詳しいですよ(笑)
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